『VIVANT』は“考察ドラマ”なのか? 視聴者を作品に“参加”させる3つの要素

『VIVANT』は“考察ドラマ”なのか?

 考察に適したドラマの特徴を挙げるなら、「①伏線が散りばめられ情報量が多い、②展開が早く視聴者を裏切る要素がある、③動機が複雑あるいは人間関係が錯綜している」だろうか。詳細な設定とともに、巧みな展開やリアリティのある心理描写、過去作とのリンクが相乗効果を生み、作品の被分析性を高める。

 『VIVANT』はこれらの要素を兼ね備えている。主人公の乃木が別班の一員と判明するまでの正体を隠した誤送金事件の顛末だったり、別人格の存在や序盤からサブリミナル的に挿入された生き別れの父親との関係、主要人物でありながら裏がありそうな薫(二階堂ふみ)や新庄(竜星涼)など、情報をうまく出し入れすることで、常時、複数の可能性をちらつかせた。衣装や音楽を含めて、『スター・ウォーズ』シリーズ、『007』シリーズ、『ミッション:インポッシブル』シリーズなど過去の名作を想起させる遊び心もあった。

 原作・演出を務める福澤克雄監督は、こうした引きやフックのある画作り・演出が上手い。アップを効果的に使うカメラワークと相まって、日曜劇場における一連の作品で、普段ドラマを視聴しない層の関心を呼び起こすことに成功してきた。本作では複数の脚本家を起用する布陣で、エピソード相互間の連結が図られている。なかには伏線か、単なる思わせぶりな描写か判別がつかないものもあるが、それらも含めてミスリードや良い意味のあおりとして機能しており、考察の材料を提供している。

 ドラマが感情を描くことで人間を表現するものであるとして、国や家族という骨太なテーマを取り上げた『VIVANT』において、堺や阿部寛、役所広司らキャリアと実力を兼ね備えた主演級が交わす重厚な芝居は見応えがある。それに加えて映像とストーリーの両面で入念に練られた本作は、受動的な視聴にとどまらない分析の楽しさを提案するものだ。従来の日曜劇場の延長線上にありながら、考察カルチャーに適応した『VIVANT』は作品と視聴者の幸福な出会いを示している。

参照

https://twitter.com/ist_yohei/status/1694996097733980430
https://twitter.com/ist_yohei/status/1691081937220235265

■放送情報
日曜劇場『VIVANT』
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54放送
出演:堺雅人、阿部寛、二階堂ふみ、竜星涼、迫田孝也、飯沼愛、山中崇、河内大和、馬場徹、Barslkhagva Batbold、Tsaschikher Khatanzorig、Nandin-Erdene Khongorzul、渡辺邦斗、古屋呂敏、内野謙太、富栄ドラム、林原めぐみ(声の出演)、二宮和也、櫻井海音、Martin Starr、Erkhembayar Ganbold、真凛、水谷果穂、井上順、林遣都、高梨臨、林泰文、吉原光夫、内村遥、井上肇、市川猿弥、市川笑三郎、平山祐介、珠城りょう、西山潤、檀れい、濱田岳、坂東彌十郎、橋本さとし、小日向文世、キムラ緑子、松坂桃李、役所広司
プロデューサー:飯田和孝、大形美佑葵、橋爪佳織
原作・演出:福澤克雄
演出:宮崎陽平、加藤亜季子
脚本:八津弘幸、李正美、宮本勇人、山本奈奈
音楽:千住明
製作著作:TBS
©︎TBS

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