長田育恵が『らんまん』に込めた“開花”と“継承” 脚本執筆は「幸福な時間でした」

脚本・長田育恵が語る『らんまん』への思い

最終週は最初から決めていた仕掛けがある

――神木隆之介さん、浜辺美波さんの演技をどのようにご覧になっていますか?

長田:神木さんは唯一無二の方だなと思います。朝ドラの主人公として最高に難しい役を素晴らしいコントロールで演じきっていただいている。裏表がない神木さんでなければ成立しない主人公を演じていただいていると痛感しています。神木さんはセリフのないシーンの演技力も素晴らしくて、万太郎が大学を追放されて、田邊邸で話が決裂した後の回は、台本を書くのも難しかった場所なんですけれども、神木さんは表情や眼差しといった言葉ではない部分で彼の心情を表現してくれました。実はこの万太郎という人物は“らんまん”でありつつも、壮絶に孤高な主人公でもあって。孤高だからこそ繋がり合う愛おしさだったり、切なさを誰よりも痛感しているキャラクターなんです。自分の選択に対して弱音を吐くことを許されてはいないけれど、その分、この世界の美しさや優しさも知っている。神木さんは、万太郎の弱さや気高さも体現してくださっています。寿恵子さんは逆に、平たい言い方で言ってしまうとヒーローだと思うんですね。孤高の道を歩む万太郎に対して、太陽のような、導き手のような、凛々しくて、それこそ八犬士のような(笑)。「寿恵子、トライ!」を続けていくスケール感。バイタリティ。無限の可能性。寿恵子さんの明るい勇敢さに全く悲壮感が漂っていないところは、まさに浜辺さんが演じてくださるからこそ。この物語は全ての植物がそれぞれありのままに咲き誇るように、自分で選んだ生き方、自らの生を咲き誇っていこうとしている人たちの物語なので、寿恵子は寿恵子の自己実現のために万太郎というパートナーを選んでいるんです。万太郎と共に生きるからこそ、あの時代において大輪の花を咲かせることができた。浜辺さんの笑顔があるからこそ、寿恵子の人生もまた、喜びに満ちた、輝けるものだったと信じることができるんです。

――週タイトルは全て植物の名前で統一されています。

長田:万太郎が植物図鑑を作る話なので、最終回の放送が終わって全てを見渡した時に、週タイトルを含めて植物図鑑のようになっているといいなと思ったんです。サブタイトルを植物にしようというのは初期の段階で決まっていました。植物学者の話ではあるんですけど、植物だけを発見に行く物語にするとその時点で植物に興味がない視聴者は脱落してしまうと思ったので、植物と人間を結びつけていくことは最初の段階から構想にありました。「バイカオウレン」はお母さんのヒサ(広末涼子)、寿恵子さんの名前を冠した「スエコザサ」、「ササユリ」は綾、「キツネノカミソリ」は逸馬、「ホウライシダ」は田邊教授と結びついていたりと、人との出会いを印象的に彩るものとして植物を使っているところもあります。それから業績関係。「ムジナモ」や「ヤッコソウ」、「ヤマトグサ」などは史実ではあるのですが、ただ年表上の事柄とはせずに、登場人物たちの心を書き切ることに注力しました。さらに別パターンとしては、今後クライマックスで関東大震災が起こりますが、大震災という未曾有の被害があった東京の荒野でも咲いている生命力の強い、この時期に咲いている花はなんですか、と植物チームに問いかけをして、「ムラサキカタバミ」を挙げてくださって。それはこの文脈で使いたいというのを先に出して、その中で用意できるのはなんですかと聞いたパターンでした。ほかにも、例えば「シロツメクサ」の週は、最初は「カガリビソウ」のタイトルだったんです。牧野富太郎の自伝に東京に来て初めてその「カガリビソウ」を教えてもらったというエピソードに関連して書き上げた週だったのですが、レプリカを作るための花が時期が合わずに手に入れることができず、それで書き上げた初稿をすべて捨てて、「シロツメクサ」が最も生きる文脈を組み立て直しました。1週間で通過するストーリーラインは変わらないんですけど、通す文脈を変えていくということをやっていました。

『らんまん』

――以前、制作統括の松川博敬さんが、万太郎の人生をどこまで描くかまだ決まっていないとおっしゃっていたのですが、長田さんの中で最終回のアイディアはいつ頃から決まっていたのでしょうか?

長田:最終週は私の中で割と最初から決めていた仕掛けがありまして、その仕掛けがある以上、万太郎は何歳であっても構わないというのがあるんですよね(笑)。最終週は「継承」が大きなキーワードになっています。牧野富太郎さんが生涯をかけて集めた標本の点数は40万点以上あるんですけれども、その40万点が資料として活用されなければ標本は生きることにはならないんですね。この40万点を活用させたところから初めて、牧野富太郎コレクションを元に、世界各国と貴重な標本の交換ができるようになりましたし、日本の植物分類学の基盤として今現在でも、絶滅した植物を辿ることもできる大きなソースになっている。そのソースを後の世の人たちにどう見せていくのかが大きなテーマになっていて、万太郎が図鑑を作ろうと頑張り続けるのも、後世の人たちに手渡すために今この人生を使って頑張り抜いているということがあります。植物が種を残して次にまた花を咲かせていくように、次の世代に残すということをコンセプトに考えていました。万太郎の“開花”の時期はやがて終わり、今度は後にどういう実を残すかというターンになっていきますが、開花が終わった後の万太郎の生き様を楽しみにしていただきたいと思います。この『らんまん』という物語は、槙野万太郎が生きとし生けるもの全てのありのままの特性を見つめ、その特性を愛し抜くということが全編にわたって貫かれています。万太郎と寿恵子、周りの登場人物たち、それぞれの冒険はもう少し続くことになるので、皆の人生が咲き誇る物語、その行方を楽しみに見守っていてもらえたらと思います。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK

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