Netflixシリーズ『ONE PIECE』が実写化大成功となった理由 アメリカで作られた意義を考察

 永きにわたり、漫画雑誌『週刊少年ジャンプ』の屋台骨を支え続けてきた、尾田栄一郎によるヒット作『ONE PIECE』(ワンピース)。これまで、TVアニメやアニメ映画で映像化され、原作とともにファンから好評を博してきたが、ついにこの度、初の実写ドラマ版が、アメリカ、日本の共同製作の作品として、Netflixから配信された。

 日本の漫画、アニメ作品が実写化されると、SNSを中心に、辛辣な反応が寄せられる場合が少なくない。だが、今回は驚くほどに評価する声が多い。そして日本のみならず、アメリカの批評家や観客の評価も高いのである。これは、少なくとも現時点において“実写化大成功”と言っていいだろう。

 そんな実写ドラマ『ONE PIECE』の成功から読み取れるものや、作品に内包される試みや思想などを、ここではできるだけ深いところで読み取っていきたい。

 まず本シリーズの大きな特徴といえるのは、原作漫画のテイストをできる限り再現しようという意志を強く感じるところだ。主人公のモンキー・D・ルフィを演じる、まさに漫画から飛び出てきたようなメキシコのイニャキ・ゴドイや、ロロノア・ゾロ(新田真剣佑) 、ナミ(エミリー・ラッド)、ウソップ (ジェイコブ・ロメロ・ギブソン)、サンジ(タズ・スカイラー)などの「麦わらの一味」をはじめ、イメージを崩さないキャスティングのこだわり、衣装やメイクのこだわりからは、この作品にかけるスタッフの熱意が十二分に伝わってくるし、ギリギリで陳腐にならない、リアリティとのバランスを慎重に考えていることが分かる。

 また、作中の小ネタや、TVシリーズの主題歌のフレーズがオーケストレーションされた劇伴が要所で披露されるなど、原作漫画だけでなくTVアニメのファンに向けたサービスがあるところも嬉しいものだ。

『ONE PIECE』イニャキ・ゴドイ、尾田栄一郎に会う - Netflix

 本シリーズの製作総指揮にも名を連ねている、原作者・尾田栄一郎もまた、原作をリスペクトするプロモーションに協力し、イニャキ・ゴドイの目の前で「君以外、想像できない」とわざわざ発言している。これは、人気漫画の映像化作品にネガティブな印象を持つ層への、Netflixの対策だと考えられ、SNSの評判や誘導が、現在のマーケティングにとっていかに重要だと考えられていることが理解できるとともに、絶対に失敗させないというNetflixの姿勢が感じられる。

 また、原作漫画同様に、映像作品としては難易度が高いといえる、本格的なファンタジー冒険活劇を目指している点は、非常にチャレンジングだ。大海原や島々、港などを舞台に、宝探しやバトル、人間ドラマなどが、巨大なスケールで繰り広げられていく。大勢の海賊たちが大秘宝を目指して、我先にと海へと向かおうとするオープニングの映像に象徴されるように、この困難な題材の、映像化しやすいところだけをピックアップするようなごまかしはせずに、漫画のスケールをそのまま作品に活かそうとしているところに、圧倒されるものがある。

 鳥山明の『DRAGON BALL』の連載終了以降、『週刊少年ジャンプ』を代表する作品として育っていった『ONE PIECE』は、まさに初期の『DRAGON BALL』のような、夢があふれた王道的なアドベンチャーとして人気を博していった。ジャンプ作品の人気のジャンルはバトルであり、ギャグ漫画ですら人気が下降すると、テコ入れとしてバトルへの移行を余儀なくされていく傾向があったことを考えると、バトルを描きながらも、あくまで冒険漫画であり続ける『ONE PIECE』のブレの無さは、映像作品の原作として魅力的だといえる。

 そんなわくわくさせるような世界観、キャラクターたちの魅力が、丸ごとハイクオリティな映像になっているところが、本シリーズの快挙であり、大きな達成だといえる。これは、多くの観客が認めるところだろう。

 また、原作の特徴となっているのは、大海原を旅していく「麦わらの一味」における、仲間との精神的な繋がりが、ときにウェットだと感じるほどに強く描かれているところだ。ここは実写化される上で懸念される点だとも思われたが、仲間たちがお互いに協力しながらも、それぞれが自分の夢を追いかけ、それぞれが個人主義的な目的を果たそうとする姿を強調することで、アメリカ風の価値観のなかで共感できる内容として成立しているといえよう。

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