『らんまん』里中の優しさが現実の重みを物語る 万太郎は国益と純粋な研究心の板挟みに
『らんまん』(NHK総合)第108話で、万太郎(神木隆之介)は台湾へ行く学術研究員として推薦された。植物学教室へやってきた里中(いとうせいこう)もまた、「植物学調査にかけては君が一番ふさわしいと思う」と口にした。万太郎は出発を遅らせ、現地の言葉を学びたいと申し出るが、陸軍大佐の恩田(近藤公園)は「台湾は既に日本の統治下にあっとお」「調査団では日本語ば使うように。こいは命令ばい」と制する。
「こいは国力増強のための調査ですばい。国益となる植物ば、しっかり調査してくんさいよ」
植物学教室を去る前、恩田が万太郎にかけた言葉は激励ではない。国家の機関に属する人間という自覚を持て、という圧力だ。状況が飲み込めていない万太郎に、里中が声をかけた。
「槙野君、世の中が変わったねえ」
「戦争による好景気。研究予算が増えるのはありがたいが、その分『国のために働け』と言われ続ける」
「どうする? 槙野君。降りてもいいよ」
「だが……私は君を選びたい。どうかね?」
里中を演じるいとうせいこうの声色にもまなざしにも、万太郎を配慮する優しさが感じられるが、一方で現実を突きつける重圧感もある。里中はかつて、大学への出入りを禁じられ、植物研究の場を失った万太郎に「やめるなよ」と言った。里中は、万太郎の植物研究への情熱を、そして植物に向き合う万太郎の純粋さを誰よりも知っている。国のために働くという姿勢が万太郎に合わないこともわかっているだろう。しかしそんな万太郎に植物研究を続けてもらうためには、現実にも目を向けてもらう必要がある。里中の佇まいから、戸惑う万太郎に寄り添う優しさが感じられるからこそ、研究者たちが厳しい立場に置かれていることがひしひしと伝わってきた。