『らんまん』徳永教授は大窪も切ってしまう人間に? 「日本人は器用」の評価に滲む悔しさ
「みんなに花を愛でる思いがあれば、人の世に争いは起こらんき」
どんな草花にも必ず名前があり、そこで生きる理由がある。日本中の植物を載せた図鑑を作ることで、人々にそのことを証明しようとしている万太郎(神木隆之介)。「何のために?」という物語の核心に近づく問いの答えが、彼の言葉に詰まっていた。
草花を愛でるように、人は人を愛せるはず。そんな考えを持った万太郎に再び光が当たり始めた先週の『らんまん』(NHK総合)。だが、週が明けて最初の放送である第106話で見えてきたのは、徳永教授(田中哲司)が万太郎を助手として雇ったその驚くべき目的だった。
田邊(要潤)に植物学教室への入室を禁じられてから7年。万太郎が久しぶりに足を踏み入れたその場所は、良くも悪くも変化を遂げていた。まず目に入ったのは、大学院の学生たちが主導で植物の検定を行う様子である。尖った葉の形から“エビガライチゴ”と検定された植物は、万太郎の知識で“クロイチゴ”と改められた。本来、その助けとなる数多の論文には目もくれず、顕微鏡の中をひたすら覗き込む白衣姿の学生たち。少なからず万太郎も違和感を持ったその光景こそが、今の徳永が目指す世界を体現していた。
留学先のドイツで、植物学者のエングラー博士が万太郎の植物画とともにムジナモを紹介している文献を目にしたという徳永。「お前のムジナモが世界で評価された最大の理由はとにかく植物画が良かったからだ」「ドイツで言われたよ。日本人は器用だと」と語るその口ぶりに悔しさが滲み出る。徳永が目の当たりにしたのは、いわば日本の植物学が正当に評価されない現実だ。植物学雑誌で田邊が宣言した通り、今や日本人は欧米の学者に頼らず、新種の認定と学名の発表が行えるようになった。それは万太郎だけではなく、徳永を含めた大勢の日本人植物学者たちによる血の滲むような努力があってこそ。しかし、皮肉にも万太郎の植物画が評価されたことで、その努力は全て「日本人は器用」という一言に集約されてしまった。