『VIVANT』が受け継ぐ黒澤明作品のヒューマニズム 素朴な人間観が一つの希望に

『VIVANT』が受け継ぐ黒澤明イズム

 どのようなドラマになるのか全くわからないまま放送がスタートした『VIVANT』(TBS系)だが、第4話を終えて、ようやく全貌が見え始めた。

 日曜劇場(TBS系日曜21時枠)で放送されている本作は、『華麗なる一族』(TBS系)や『半沢直樹』(TBS系)といった日曜劇場のドラマを作り続けてきた福澤克雄が原作・監督を務めるオリジナルドラマだ。

 誤送金された多額の契約金を回収するために、バルカ共和国へと向かった丸菱商事の課長・乃木憂介(堺雅人)は、警視庁公安部の野崎守(阿部寛)とWHI(世界保険機構)に所属する医師・柚木薫(二階堂ふみ)と知り合う。日本に戻った乃木は、野崎の協力で誤送金を仕組んだのが、同僚の山本巧(迫田孝也)であることを突き止める。山本はテロ組織・テントのモニター(潜伏工作員)で、同じモニターの黒須駿(松坂桃李)のサポートで海外逃亡を図るが、実は黒須は別班の工作員で、乃木もまた別班の工作員であったことが明らかになる。

 野崎が所属する公安と乃木が所属する別班がテントを追いかける三つ巴の戦いという物語の全貌が、やっと見えてきた『VIVANT』だが、乃木の別人格・Fの存在を筆頭に、謎はまだ多い。

 謎が謎を呼ぶ緊迫感のある壮大なストーリーと、海外ロケによる壮大なスケールの映像。そして堺雅人、阿部寛、二階堂ふみ、松坂桃李、役所広司、二宮和也といった主演級の俳優が勢揃いした豪華キャストという三大柱が『VIVANT』の魅力だということは誰に目にも明らかだろう。だが、個人的にもっとも気になっているのは、バルカで乃木が出会った少女・ジャミーン(Nandin-Erdene Khongorzul)の描き方だ。

 乃木はバルカの砂漠で倒れたところ、ジャミーンと父親のアディエル(Tsaschikher Khatanzorih)に助けられる。しかしその後、乃木と同行したアディエルは乃木を狙った爆破テロに巻き込まれて、命を落としてしまう。

 一方、薫はジャミーンの主治医で、難病を抱えた彼女を救うために日本に連れて行こうとしていた。爆破テロの容疑者としてバルカ警察から逃走している時も、薫は父を亡くして天涯孤独となったジャミーンのことを心配し、危険を顧みずに彼女の元に立ち寄ることを選ぶ。薫の選択に野崎は反対するが、乃木は自分を助けてくれたジャミーンを心配していっしょに戻ることに同意する。

 “自分が危機的状況に陥っていても、困っている人を助けることができるのか?”という葛藤が、本作では繰り返し描かれる。

 第3話では、3人がラクダに乗って砂漠を越える旅をしていた時に、薫がラクダから落ちたことに途中で気づいた乃木が、命の危険を顧みずに薫を探しに行く姿が描かれる。その後、日本に帰国した乃木はジャミーンの手術費用を集めるためにクラウドファンディングを立ち上げるのだが、テロ組織との戦いと同時進行で、ジャミーンの手術の話が進んでいく。手術の話は一見、本編とは無関係に見えるのだが、彼女を助ける物語があることで、作品の中に温かみが生まれている。

 敵、味方が簡単に裏返っていく本作の物語はとても殺伐としている。日本を守るという乃木の言葉もどこか空疎で、本気でそう思っているのかも疑わしい。だが、ジャミーンを助けたいという乃木の気持ちは純粋なもので「困っている人がいたら、とりあえず助けようよ」という素朴な人間観が、一つの希望となっている。

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