『転職の魔王様』はキャラクターの心の成長を描く 相手の長所を探す成田凌の視点
仕事で悩まない人はいない。起きている時間の大半を過ごすことになる職場だから、よく考えて自分で決めて入ったはず。それなのに……。『転職の魔王様』(カンテレ・フジテレビ系)第3話の主役は入社4年目の笹川直哉(渡邊圭祐)。大手食品会社に勤務する笹川は「自分の仕事が適切に評価されていない」と感じ、シェパードキャリアの門を叩く。
若者の早期退職が問題になって久しい。ここ最近は下げ止まりの傾向が見えてきたが、それでも3年以内に離職する割合は30%台と高い水準を維持している。これは大卒新入社員の数値で、高卒を含めるとこの数字はさらに上がる。会社の将来を担う若手社員の流出は、企業にとって深刻な問題だ。
一方で、社会に出る若者に以前から言われてきたのが「石の上にも3年」という格言だ。社会とは不条理なものであり、最初はネガティブな面ばかり目に入るかもしれないが、我慢していれば、そのうちに世の中の仕組みや周囲の人間関係、自分がやっている仕事の呼吸がつかめてくる。そうなればしめたもので、水を得た魚のように仕事が面白くなるという“人生の先輩”からのありがたい助言だ。
高止まりする若手の離職と“とりあえず3年”のどちらが正しいのか? その疑問に対する“魔王”来栖嵐(成田凌)の答えは味わい深いものだった。ノリと元気が取り柄の体育会系で、上司の理不尽な要求に耐えて接待担当として取引先をもてなす毎日。きっと笹川のような若手社員は多いに違いない。明るく振る舞う日々の中で、ふと我に返って考える。いったい自分は何がしたいのだろう。思い出すのは辞めていった同期の存在だ。3年たって生き残っているのは自分だけ。そんな自負心を心の支えにしていた。
あいかわらず魔王は転職者に容赦ない。「その仮面、いつまでつけ続けるおつもりですか?」「とりあえず3年はもはや死語です」。笹川の3年をまるで無駄だったとでも言うようにばっさりと切り捨てる。来栖の狙いは笑顔に隠された笹川の本心を引き出すことにあった。笹川自身、周囲に忖度するうちに自身の強みややりたいことを見失っていたからだ。
観ていると、笹川は流されがちな一面があって、よく言えば協調性と言えるが、芯のない奴と思われ、上司から軽んじられる一因になっていたと思われる。逆にそのおかげで上司と衝突せずにやってくることができた。だから笹川が自分自身と対話し、自分なりに積極性を打ち出したとたん、上司とぶつかってしまったことには必然性があった。