『らんまん』十徳長屋は物語におけるドクダミだ 福治、ゆう、倉木の“生薬”としての役割

 自分を取り巻く環境や状況に良くも悪くも大きく左右され、人は変わっていく。

 『らんまん』(NHK総合)で、万太郎(神木隆之介)と同じ植物学教室にいる藤丸(前原瑞樹)は、夏休み後すぐは、植物採集に行ったことや植物学雑誌が今後の植物学に与える影響について目を輝かせて語っていたのに、今や「大学を辞めたい」とまで言うようになってしまった。それは、田邊教授(要潤)が新種の植物として発表しようとしていたトガクシソウが、伊藤孝光(落合モトキ)によって先に発表されたことによって起こった心境の変化だ。

 こういう時、藤丸に必要なのは第三者からのアドバイスだろう。でも万太郎は藤丸からしてみれば、今、いるのが辛く感じている“戦場”で勝ち続ける才能のある者だ。そんな人にたとえば「一緒に頑張ろうよ!」と言われたとしても素直に頷けはしないだろう。万太郎も藤丸にかけるうまい言葉が見つからないようだった。

 そんなとき、大学を辞める理由をいろいろ並べ、吹っ切れたようでウジウジしている藤丸に厳しい言葉を投げたのはゆう(山谷花純)だ。

「いなくなった方がいい理由、百個見つけて、これでいいって言い聞かせても、結局忘れられない。辛いままだよ」

 この言葉はゆうが夫に離縁された時、子どもをそこに置いて、自分だけが逃げてきてしまった後悔からきている。ゆうの思いが少しは、藤丸に伝わったのだろう。自主退学を決意したはずの心は揺らぎ、ちょっとひ弱な本来の藤丸に戻っていた。

 長屋には、いろいろな過去を持った人たちが住んでいる。不思議なことに、それぞれがそれなりに辛い経験をしているのに、今はあっけらかんとして明るい。きっと各自が各自の方法で過去を乗り越えたのだ。そんな彼らの言葉は現在進行形で悩んでいる若人を救うきっかけになっているのではないだろうか。

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