『らんまん』浜辺美波は朝ドラ屈指の画期的な妻に 万太郎と“対等”な寿恵子の冒険心

 『らんまん』(NHK総合)の後半戦のポスタービジュアルは、ピンク色をバックに、万太郎(神木隆之介)と寿恵子(浜辺美波)の2ショットで、夫婦もの感が高まっている。第15週「ヤマトグサ」はさっそく寿恵子が活躍する。朝ドラでは、夫が偉業を成し遂げる人物の場合、妻は内助の功を発揮し、その物語が熱く支持されてきた。

 『ゲゲゲの女房』『マッサン』『まんぷく』、どれも妻が苦労して夫を支え、晴れて栄誉を勝ち得た暁には、最もそばでその喜びをともに噛みしめることができる。妻は、夫の大望への挑戦と成功の喜びを自分のことのように享受できることに人生の価値を見出す。

 『らんまん』では、福治(池田鉄洋)の妻が彼に野心と成功を期待し、それを持たず身の丈を知る生き方を選んだ夫を見限るのだが、その妻こそ、夫の栄誉を最もそばで喜びたい妻の代表格であろう。福治の生き方も、妻の生き方も間違ってはない。が、ここでは、やや旧時代的な人物として描かれている。

 時代は急速に変わっていて、昨今の男女平等の気運の高まりに『エール』では序盤、妻も夫と並んで音楽への夢を持って張り切っていた。ところが、圧倒的な夫の才能のもと、自分の夢を諦めて夫を支えるようになる。晩年になって、夢をかなえるが、それはこれまで働いたご褒美、みたいなものであった。なぜ、女性キャラはそう描かれるのか。はたしてそれでいいのか。『らんまん』は長年の懸案を晴らすように、寿恵子を内助の功では済ませない。共に戦う同士、なんなら、彼女のほうが大きな決断をするように描く。

 寿恵子は、1000円もする(長屋の家賃が50銭)高額印刷機を購入しようと万太郎に提案。あの無謀な万太郎すら、考えもしなかった、私用の印刷機の購入という、清水の舞台から飛び降りるようなことを思いつくのは寿恵子なのだ。そこに登場からずっと描かれてきた彼女の冒険心がある。

 綾(佐久間由衣)が持たせてくれた結婚祝いの1000円を費用に当てようとする寿恵子。これはなにかあったときのための虎の子であり、それを使うということは退路を断つということだ。寿恵子はじつに肝が座っている。ただ、それが、単なる冒険心のみならず、万太郎と一緒にいたいという乙女心(ごころ)や、万太郎の健康を心配する妻心(ごころ)も混ざっているところが手厚い。

 万太郎が大畑印刷工場に通いつめたら、夫婦水入らずの時間もなくなるし、万太郎の睡眠時間などが圧迫されていく。ひとりでいるときは誰にも迷惑をかけることなく自分のやりたいことをやれるが、結婚して家族ができると、そうはいかない。家族を守らないといけないから夢を捨て安定した仕事をするようになるというのは現代でもあることだ。江戸時代以降の「家を守る」が第一であった考え方は明治になってだいぶゆるくなったけれど、やっぱり結婚し子供を産む、という営みがある以上は、最低限、家族を守る責任からは逃れることはできないのだ。

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