アニメ『スプリガン』は原作の“カッコよさ”を見事に昇華 宮下兼史鷹も真似した行動とは?

 7月7日より地上波放送が開始された、アニメ『スプリガン』。2022年にNetflixシリーズとして配信された本作は、原作をたかしげ宙、作画を皆川亮二が担当し、『週刊少年サンデー』(小学館)にて1989年から1996年まで連載された漫画をdavid productionがアニメーション制作を務め、映像化した作品だ。

 超古代文明の遺産を封印するために設立された“アーカム”の特殊エージェント、“スプリガン”として奔走する少年・御神苗優の活躍を描く。監督を『機動戦士ガンダム 水星の魔女』の小林寛が務め、シリーズ構成・脚本を『呪術廻戦』シリーズや『チェンソーマン』などのMAPPA作品で活躍する瀬古浩司が担当、そしてキャラクターデザイン・総作画監督を、「リトルウィッチアカデミア」の半田修平が務めている。アニメーションのクオリティはもちろん、各話完結型のストーリーからは、原作の持つ深みが感じられる。そんな本作の魅力を、お笑いコンビ・宮下草薙のツッコミとして活躍する宮下兼史鷹に語ってもらった。

『スプリガン』には今の漫画にない“良いダサさ”がある

ーーまず、『スプリガン』を知ったきっかけから教えてください。

宮下兼史鷹(以下、宮下):僕が漫画にハマったのが小学校5、6年生くらいの時で、そこから中学生になってお小遣いが多少上がって好きな漫画が買えるようになったんです。その時にはすでに、「『スプリガン』と『ARMS(アームズ)』は面白いから絶対読んでおけ」という漫画だと聞いていました。皆川亮二さんの『ARMS』(原案協力:七月鏡一)の方を先に読みましたね。忘れもしないブックオフで立ち読みして「めちゃくちゃ面白いな!」って。その後、たかしげ宙さんと皆川さんによる『スプリガン』を読みました。僕って、本当に大人になってからも厨二病を拗らせているタイプなんですけど、『スプリガン』のせいだなってこの間読み直した時に思って(笑)。やっぱり『スプリガン』って究極の厨二病なんですよ。だから本当にそういう人たちが好きな設定がてんこ盛り。主人公もめちゃくちゃ能力は高いけど、まだ自分で引き出せていないっていう、もう僕らからしたら最高の設定なんですよ。それをしっかりと真正面からやってくれているのが、『スプリガン』の良さであり、原作者お二人の良さ。遺跡とかオーパーツとか、男の子たちが夢中になる知識と想像力を集結して作った感じ。だから「わかるわー」って思うし、「これもう最高だよね!」っていうのをヒシヒシと感じる。改めて読み直しても面白くて、ストーリーもそうですが設定だけでワクワクさせてくれるっていうのは、今の漫画には意外と足りていない部分なんじゃないかなと思います。

ーー90年代の漫画作品としての雰囲気もそうですし、遺跡やオーパーツがベースにある中で“オーバーテクノロジー”が主題にある点もくすぐられますよね。

宮下:あの年代の雰囲気もいいですよね。『インディ・ジョーンズ』みたいなことをやっているんだけど、『インディ・ジョーンズ』ではない。“サイバー・インディー・ジョーンズ”じゃないけど(笑)。僕がやっぱり好きなのは、主人公の着用する装備の「A・Mスーツ(アーマードマッスルスーツ)」。カッコいいし、声に出して言いたくなる。ネーミングの古風さが、すごくこの年代ならではというか、この頃の漫画のいいところなんじゃないかなって。“年代を感じさせるカッコよさ”。そういう部分がすごくある漫画だと思いました。

ーーそういった点はキャラクター同士の話し方にも表れていますし、敵と一時休戦する雰囲気もまたカッコいいですよね。

宮下:そうなんですよ。アニメにも登場するボー・ブランシェというキャラがいますけど、あいつもやっぱりバカだけど憎めないやつで。そういうキャラが一人でも物語に入ってくると急に彩りが良くなるというか、そういうキャラがもう一回出てきた時にワクワクさせる作りの漫画だと思うんです。戦った後、なんとなく敵対しているけど友情というか何かの関係性が芽生えて、その後の話でまた出てくるっていう。その楽しさを連続してやっている作品だから、敵や仲間の登場人物に個性があるのがすごく良い。名前の付け方も良いですよね。「御神苗(おみなえ)」って。原作先生のネーミングセンスも面白くて、素晴らしいところです。

ーーこれまでリアルサウンド映画部での連載でも宮下さんのお話を伺ってきましたが、本作のオーパーツ(その時代や文化にそぐわない遺物)的な要素とか、お好きじゃないですか?

宮下:めちゃくちゃ好きですね。遺跡って、まだまだ現代の科学でもなぜなのか説明がしきれないものがある。ピラミッドもどう建てられたのかまだわからなくて、謎が含まれているんですよね。そして古代なのに今の人類の科学力より上だったんじゃないかって、その部分を本作がとても強調して描いているところが、僕にとってはすごく魅力的なんです。「宇宙人なのかな」とか、「人間がやったとは思えないな」とか、自分がそういうのに思いを馳せた時に、やはり同じように思うんですよ。そういう神秘的な面白さをすごくストレートにやってくれるので、これでいいんだよって思う。そこが僕は好き。結局この『スプリガン』の厨二病的な設定を目にして育った分、今の漫画が僕はカッコ良すぎると感じてしまって。もっといい意味でダサくしてほしいんですよね。やはり“ダサさ”って僕はすごく良いものだと思うんです。僕が好きな特撮作品にも言えることですが、ある程度ダサいんです。必殺技を叫んだり、すごくカッコつけた言葉を言ったり。でも、じゃあなんでそういうのを聞きたいかって考えたら、それが漫画の中でしか聞けないからなんですよ。物語の中でしか聞けないから、そのセリフを聞いて「うわあ」ってなる。だから今の漫画って結構現実的なことが多くて、リアルでも言いそうなセリフとか多いじゃないですか。そんななかで、こういう『スプリガン』のような年代の作品って、今だからこそ読み返して面白いし、みんなが必要としている要素だと僕は感じています。

ーー確かに。人類に警鐘を鳴らすような、一貫したテーマも年代を感じさせますね。

宮下:一応、思惑は交錯するんですよ。それでも主人公の御神苗優だけは一貫して「俺と繋がっている仲間、コミュニケーションをとった人たちを守りたい」っていうモラルがあるから、ブレずに読めるし安心できる。

ーーそういうところもカッコいいですね。そんな彼とアニメで毎話登場する女性キャラクターとの絡みも見どころというか、彼女たちも彼女たちなりの強さがあって良いですよね。

宮下:確かに。女性がすごく強いですよね。芯が通っているというか。か弱すぎる女の子が一切出てこないんですよ。なんなら染井芳乃とか、御神苗がいなくてもなんとかなるんじゃないかと思います(笑)。か弱いヒロインを出したくなるストーリーな気がするけど、登場するのがちゃんとみんな芯が通った強い女性なんですよね。そういう女性の描き方もすごく好きです。それぞれ能力があって役割があるのもすごくカッコいい。

朧とジャン・ジャックモンドに詰まっている“男の憧れ”

ーー本作での推しキャラは誰ですか?

宮下:朧とジャン・ジャックモンドがめっちゃ好きで……ジャンは本当にカッコいいんです。そもそも、やはり“自分の血を見ると獣人化して我を忘れてしまう”っていう設定がもう好きですね。「うわーそうなりてぇー」って思いますもん(笑)。そしてジャンって、すごい憎まれ口を叩くけど、根はいいやつなんですよ。それが僕にとって憧れ。だから僕、中学の時に本作を読んでジャンに憧れて、結構悪態ついちゃっていたんです。僕の場合は嫌われただけだったんですけど(笑)。ジャンは好かれるのでね、憧れます。御神苗に対しても、ジャンは結構上から目線ですが、実際は対等的なんですよね。だから、見ていて体が痒くなるような友情よりも、ああいう憎まれ口を叩き合う仲って男の憧れっていうか。ああいう友達が一人いたら最高なんだなって思わせる感じがすごく好きです。漫画の後半で朧とジャンが戦う場面があるんですけど、僕はもう苦しくて読んでいられなかった。好きなキャラと好きなキャラだし、どちらかが死ぬんだろうなと思っていたし。「このキャラとこのキャラを戦わせるんだ」っていうのも、『スプリガン』の面白さなんですよ。

ーーそんな朧の好きなところは?

宮下:敬語キャラって、やはり知的さがあってすごく好きなんです(笑)。朧は改造手術を受けたとか、獣人(ライカンスロープ)として生まれた背景がない。ただ、人間として生まれて、一つを極めてあそこの域まで辿り着いたんです。だからパワーとスピードだと、スーツをまとった御神苗と獣人化したジャンの方が有利にみえるんですけど、それを自分の努力でなんとかしているのがカッコいいんです。そもそも天才ではあるけど、自分の修行で身につけた故の自信が一番カッコいい。みなさんアニメから入った方も続きが気になってこれから原作を読みたくなると思うので、あまり詳しいことは言えませんが、朧は最終的に神に近いような仙人になりたいんです。本作に出てくる他の悪い奴らって、全部遺跡の力を借りて神になろうとしたり、同等のパワーを持とうとするけど、朧は自分の中にある能力をただ極めるだけで神になろうとするんです。他のキャラと志が全然違って、そこがやはり良い。“己の力だけで神になろうとしている男”。もうカッコよすぎます。

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