『THE IDOL』がオマージュした元ネタは? 最終話で明かされた“ダークなおとぎ話”の真相

 それでも不可解な部分は残されているわけだが、ここからは、最終話のネタバレとなる。

 『THE IDOL』の結末とは「カルトに洗脳された犠牲者」のように見えたジョスリンが、そうではなかったことだ。急ぎ気味に展開されたため品質面での不評は出たが、キャラクターのパーソナリティ自体は、第一話に登場した映画『氷の微笑』や「World Class Sinner」の歌詞によってほのめかされつづけていた。

 演者のリリーいわく、サイコパス気質のジョスリンは計画的にものごとを進めていた。彼女の目的とは、気に入らないシングルを廃棄して満足いく新曲をつくること。そこでミューズとなったのが、暴力的な性行為によってインスピレーションをくれるテドロスだった。最後、信者も社会的地位も奪われたテドロスは、例のヘアブラシが新品であることに気づき、自分が操られ利用されていたことを悟る(ロブの発言も踏まえると、母親の体罰の話は誇張か虚偽であった可能性が高い)。

 最終話で語られた「本当は怖い赤ずきんちゃん」の解釈こそ『THE IDOL』の真相なのだ。この童話で少女を食った狼は、その少女と狩人によって残忍に殺される結末を迎えた。物語の冒頭で赤いローブをまとい終盤に赤いスカーフを頭に巻いたジョスリンこそ、獲物にしてはいけなかった赤ずきんである。母を亡くした「子ども」であった彼女は、狼の腹に入ることで「大人」のミュージシャンになった。喧伝されたとおり「ダークなハリウッド」と「不道徳なラブストーリー」があわさって「芸術」が生まれた物語とも受けとめられる。

 ラストのコンサートは、ジョスリンの凱旋だ。「カルト洗脳」騒動を利用した彼女は、望んだ音楽をつくりあげ、創作の足しになるミューズをも手中におさめ、その彼を公然と紹介することで業界人たちに一発喰らわせた。

 一方、ジョスリンがどこまで意図的だったかはわからない。ポップスターを搾取しつづける音楽業界において、残忍にならないと意見を通せない立場だったのだから、彼女だけが「悪党」という話でもないだろう。新米ミュージシャンへの警鐘であることを踏まえるなら「残酷になっても生き延びろ」というエールとしても響く、ダークなおとぎ話だ。

参照

https://www.vanityfair.com/style/2023/05/the-weeknd-remade-pop-music-will-the-idol-remake-the-weeknd

■配信情報
『THE IDOL/ジ・アイドル』
吹替版:U-NEXTにて、毎週月曜10:00〜1話ずつ配信
字幕版:U-NEXTにて、全5話見放題で独占配信中
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公式サイト:https://video.unext.jp/title/SID0086626

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