是枝裕和も驚いた天才子役・柊木陽太 『怪物』『最愛』『PICU』で示してきた逸材ぶり

 是枝裕和監督作品における子どもたちの演技はよく“自然体”と形容されるが、それは是枝監督による演出の産物である。柳楽優弥がカンヌ国際映画祭の男優賞に輝いた『誰も知らない』や、まえだまえだが主演した『奇跡』のように子どもたちを主人公にした作品はもちろんのこと、『そして父になる』の二宮慶多であったり『万引き家族』の城桧吏であったり、大人たちを中心にした作品においても満遍なく子どもたちの生きた演技が見受けられ、演技的なものを求められるシーンにおいても、よくある子役の演技でイメージされるような硬さがない。

 これはよく知られた話ではあるが、そうした演技を引き出すために是枝監督の現場では子役に台本が渡されず、口伝えで台詞や動きを与え、子役たちはそれを“耳”から吸収して自分のものにしていくのだという。現場で飛び出すアドリブのような部分も活かしたり、オーディションで決めた子どもたちに合わせて役柄を構築しなおしたり。そうした事柄を踏まえると、同じように子どもたちの生きた演技を引き出す名手として知られた清水宏監督と似ているようで、それ以上に難しい作為=演出を実践しているということだろう。

 そんな是枝監督の新作『怪物』もまた、子どもたちを中心に作劇された映画だ。それでもひと目観ただけで、これまでの是枝作品とは毛色が違うことがわかる。器用に組み立てられた3つの視点からの構成。巧みに配置される火災シーンや山奥の廃線跡に眠る秘密基地の車両というシンボリックで映画的なシチュエーション。演出しているという劇映画にとって至極当然なことを、あえて感じさせてくれるこうした作り込みこそ、是枝監督の映画で最も観たかったものかもしれない。おそらくそれは、これまでほとんどの作品で自ら脚本を執筆してきた是枝監督が、坂元裕二という当代きってのストーリーテラーとタッグを組んだからこそ生まれた化学反応に他ならない。

 さて、この『怪物』という作品の凄みは、ありとあらゆる方向性から作品について語ることができることにある。それでもここでは、やはり子役キャストから触れてみたい。前述の柳楽や城のような“是枝映画の子役”らしい瞳をしている湊役の黒川想矢はもちろんのこと、永山瑛太演じる保利を校舎裏に連れて行き猫の死体を見せる女の子を演じていた飯田晴音も出番は少ないながら印象的だ。そしてなんといっても、圧倒的な存在感を放っていたのが依里役の柊木陽太だ。ものすごく純真無垢な瞳にミステリアスさと感傷的な部分をたしかに携え、坂元裕二脚本特有の台詞めいた台詞さえも完全に自分のものにしている。これは只者ではない。

 柊木は2011年生まれの11歳。つまり劇中の依里とほぼ同じ年頃で演じたことになる。彼のフィルモグラフィを見てみれば、これまでは子役俳優の定番の道筋、すなわちテレビドラマなどでメインキャストの幼少期役を演じることが中心だったようだ。デビュー作の『ボクの殺意が恋をした』(読売テレビ・日本テレビ系)では中川大志の、『最愛』(TBS系)では高橋文哉の、『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)ではオダギリジョーの、『ミステリと言う勿れ』(フジテレビ系)では菅田将暉の、『拾われた男』(ディズニープラス)では草彅剛の、そして先日まで放送されていた『ラストマンー全盲の捜査官ー』(TBS系)では福山雅治。いずれも配役された決め手は計り知れないが、作り手が彼ら大人時代のキャストの面影を柊木に見出したのであれば、それだけで柊木の逸材ぶりを示す証左にすらなりうるだろう。

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