山田裕貴、絶対に折れなかった『ペントレ』を経て 「自分の声を聞いてあげようかなって」

 金曜ドラマ『ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と』(TBS系)も残すところあと2話となった。“ペンディング”された世界で結末を迎えるのかと思いきや、6号車の乗客たちは現代へと帰還。しかし、戻った時代は2026年。彼らは未来での経験をどう伝えていくのか。ドラマ開始から、数々のスタッフ・キャストへのインタビューを行ってきたが、誰もが主演・山田裕貴の存在を絶賛。その言葉どおりに全身全霊を込めた演技で、山田は作品を牽引してきた。撮影を通して、山田の中にはどんな変化が起きていたのか。『ペンディングトレイン』に懸けた熱い思いをじっくりと聞いた。(編集部)

どの角度からも絶対に萱島直哉を突き通せる自信があった

――直哉として約3カ月を過ごしてきて、感じたことや学んだことを教えてください。

山田裕貴(以下、山田):直哉は“ちょっと前の僕の感覚を持ってる人”のような気がしているので、学んだというよりは「こんなこと思ってたな」「こんなことを感じてたな」って、僕の人生を振り返ってるようでした。僕はおごっているわけでもないし、自分が世界を変えられるなんて思っていないけど、こうやって多くの方に観てもらえる仕事をしている以上、“何か変わるんじゃないか”っていう可能性を信じたくて。そのメッセージ性をものすごく持っている作品だと思うし、企画の段階からそういう作品にしたくて、脚本の金子(ありさ)さんともお話しさせていただきました。なので、「あのセリフ、打ち合わせのときに俺が言ってた言葉だな」とか、この作品自体が僕自身なんじゃないかと錯覚してしまうくらい、想いが詰まってるんです。しかもそれは、溜め込んだ思いじゃなくて、すべてアウトプットしたい想いというか。そういう3カ月だったし、もしそれが伝わらなかったら、“俺”っていう人間が伝わらないのと一緒なのかなと思うほど。「業界でも『ペントレ』の現場ヤバいんでしょ?」って噂が回るくらいなんですけど、それはヤバいんじゃなくて、キャストやスタッフのみなさんがそれだけ頑張っているということ。やれるだけやっているんです。みんなで体感したこの想いは、このみんなにしかわからない。どれだけ語っても伝わらない感情が、そこにあるなと感じています。

――直哉は“ちょっと前の僕”とのことですが、今の山田さんに変わったきっかけは?

山田:すごく抽象的で申し訳ないんですけど、いろんな出会いだったり、いろんな考えだったりを吸収していく中で、もっとシンプルに、もっと力を抜いて良いのかなと思いました。直哉はきっと、母親がこうだった、弟がこうだったって、人ばかりを意識して生きてきたんですよね。“お前の自由”を生きてなかった。僕もそうだったんです、人のことしか気にしていなかったから。自分に意思がないというか、「誰かがそう思ってくれるんだったら、それでいい」っていう考えだったんですけど、もうわがままに生きよう、みたいな。僕が楽しくなければ楽しくないし、正直に生きようって思い始めてからですかね。

――今回の撮影現場では、主演としてどんなことを心がけていましたか?

山田:とにかく細部に目を凝らすこと。たとえば、「今の反応だと伝わらないんじゃないかな」とか、自分も含めて「今の表情だと違うな」と思うところがあれば、もったいなくならないように(監督やプロデューサーに)伝えに行くようにしました。1個目線を動かすだけでも、1個頷くだけでも、セリフの音が1音違うだけでも、聞こえ方や受け取り方が変わる。「芸術は細部に宿る」という言葉がありますけど、そういうところは気にしてたかなと思います。いつもだったら、監督やプロデューサーさんに言われて「わかりました」って自分を押し殺してしまうこともあったけど、今回は絶対に折れなかったです(笑)。

――それだけ強い気持ちがあったということですか?

山田:今までに「こうした方がいいと思う」という意見を飲んで後悔したことがあるので、人のせいにしたくないから折れなかったです。「あの人が言ったから」って思っちゃうのが嫌だったので。そこに、並々ならぬみんなへの信頼と、お芝居で見せつけなきゃっていう想いと、いろんなものが重なって、「俺は絶対にそのパターンで直哉を通すので、やらせてもらっていいですか」と。これまでに100作やって、100人演じてきて、どの作品においても「あのシーンこうした方がよかったかもな」と今でも思う部分がいっぱいあるし、傲慢に言ってしまえば、どの角度からも絶対に萱島直哉を突き通せる自信があったので、僕の集大成をここでぶつけるべきだなと思いました。だから、「山田くんのこんな演技観たことない」って言われるのは結構不服で、「観てなかっただけだと思います」って言いたくなります(笑)。(乗客の)みんなと直哉じゃないけど、戦いみたいなものが僕にはありました(笑)。もちろん、直哉としての芝居を貫き通すことができるのは、素敵な表情をくれる、素敵なセリフをくれる相手あってこそ、ですけどね。自分のエゴを突き通すんじゃなくて、「優斗(赤楚衛二)がそうしてくれるんだったら、俺はこうしたいのでお願いします」「紗枝(上白石萌歌)がこうやってくれるんだったら、俺はこうしたいのでお願いします」と、相手とキャッチボールする中でのお話です。

――たくさんのキャストの方が、「山田さんがアドバイスをくれた」とおっしゃっていましたが、これまでの作品でもそういった働きかけをされてきたのでしょうか?

山田:他の俳優さんに「こうした方がいいんじゃない?」なんて、今までに一言も言ったことはないです。それに今回に関しても、みんなが聞いてきてくれたから、ですね。たとえば小春ちゃん(片岡凜)に関して言えば、「放送を観ていると、自分の表情からあまり気持ちが見えてこないんですけど、どうすればいいですかね?」と聞いてきてくれたので、それに答えたことについて「アドバイスをしてくれた」と言ってくれているのかなと思います。

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