まさか『ちいかわ』で泣いてしまうとは 草むしり検定回でも描かれた“緊張”と“緩和”

 “ちいかわ戦争”という言葉をご存知だろうか。これはイラストレーターのナガノが描く「なんか小さくてかわいいやつ」、通称“ちいかわ”と他企業のコラボ商品を求める人々の争奪戦を表す言葉。ここ最近は転売ヤーたちの買い占めも相まって、ちいかわグッズはますます入手困難を極めている。連載開始から約3年。その人気を後押ししているのが、朝の情報番組『めざましテレビ』(フジテレビ系)内で放送されているアニメ『ちいかわ』だ。

 同作は2022年4月からスタート。当初は毎週金曜日のあさ7時40分ごろから週1回放送されていたが、反響を受けて今年の4月からは新たに火曜日の同時刻にも放送されるようになった。現時点では第69話、原作単行本でいえばおおよそ2巻分がすでに映像化されている。このアニメをきっかけに子ども人気が急上昇しているが、元々はTwitter発の漫画だけに古参ファンの多くは大人だ。一見すると子ども向けの作品である『ちいかわ』が彼らの心を掴んだのは、やはり他人事とは思えないシビアな世界観だろう。

テレビアニメ『ちいかわ』PV

 ポテッとしたフォルムにうるうるとした瞳。その愛らしさゆえに、どんなに自由気ままに振舞っても周囲から微笑ましい視線を送られる赤ちゃんや小動物を見て、「いいな〜自分もこうなりたいな〜」と思った経験はないだろうか。ちいかわも本来はそんな大人たちの願望を投影したキャラクターとして誕生した。実際に当初はちいかわと友達のうさぎがプリンの上で滑ったり、自分の体以上に大きなパンケーキを食べたりとストレスフリーな日常が描かれる。

 だが、そこに猫のキャラクター・ハチワレが登場してからは意外な展開に。ちいかわやうさぎとは異なり、言葉を発するハチワレが物語に持ち込むのはいわば“社会性”。ハチワレと仲良くなったちいかわの動向を追っていると、どうやらこの世界には労働とお金という概念が存在することが明らかになっていく。ただ気楽な生活を送っているかと思いきや、彼らは草むしりやシール貼りなどの日雇い労働で得たわずかなお金でちょっとした楽しみを買う、慎ましやかな生活を送っていたのだ。さらにはキメラと呼ばれるちいかわたちの社会からはみ出した存在を倒す“討伐”という労働まであり、なんだか私たちが生きる現実を突きつけられているみたいで胸が痛む。一方でそんな現実から逃げることなく立ち向かっていくちいかわたちの健気な姿に癒されたり、勇気をもらえるから大人はこの作品にハマるのかもしれない。

『ちいかわ』うさぎの手がキメラに!? “本性”が顕になったアニメ版、くりまんじゅうも登場

朝の情報番組『めざましテレビ』(フジテレビ系)内で、毎週金曜日に放送されているアニメ『ちいかわ』。8月12日に放送された第20話…

 しかし、アニメ化決定にあたっては、こうしたシビアな世界を朝から子どもに見せるのか、期待半分、不安半分のコメントが原作ファンから挙がった。そして実際に放送が始まるとほのぼのとしたエピソードが連続で描かれ、やはりアニメは原作とは違う路線をたどるかと思われたが、第16話で「こんなになっちゃった」と泣き笑いしながらちいかわを襲うキメラが登場。大きな反響を呼んだ。以降は原作通り、ちいかわたちの平和な日常と様々な困難が繰り返し描かれるように。アニメを観ている子どもたちが後者のエピソードをどう受け止めているかは分かりかねる。だけど、制作スタッフもただ子どもたちを怖がらせたり、悲しませようとしているわけではないことだけは明白だ。特にちいかわ、うさぎ、ハチワレの友情が困難を経て深まるエピソードは数週間にわたり、あえてじっくり描くことである種の教訓を生み出している。

 例えば、振ると欲しいものが出てくるふしぎな杖でハチワレがカメラを手に入れるエピソードでは、その代償としてカメラで撮ったものが消えたり、杖を使用したうさぎやハチワレがキメラ化してしまう事件が発生。ちいかわが咄嗟に杖を折り、難を逃れたのちにハチワレは自力でカメラを手に入れることを決意する。ズルして(もちろん当の本人にはそんなつもりはなかったが)欲しいものを手に入れたって罪悪感が残るし、結果的にいいことは何もない。そんな教訓が4話分を費やすことで強く胸に刻まれる。

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