『ロッキー』と重なる『雄獅少年/ライオン少年』の精神性 手に汗握る王道スポ根大作に

『ロッキー』『あしたのジョー』 が持つスポ根的な熱狂も

 それでいて、本作はエンタメとしてのレベルが高く、そのような問題を意識せずとも、面白いと感じる観客は多いだろう。チュンの境遇や、獅子舞によって成り上がりを目指すという点は、まさに『ロッキー』であったり、日本では『巨人の星』や『あしたのジョー』のような、梶原一騎の世界観に近い。獅子舞をスポーツと称するならば、本作は王道のスポ根作品ということになる。

 獅子舞という中国の伝統文化をテーマにしている点が最も特徴的である。チュンの成り上がりの手段として、かつて日本ではボクシングや野球をテーマに上記の作品が生まれたように、中国では獅子舞が描かれた。しかしその競技にかける熱い思いは、いつの間にか観客に伝播していく。気がつけば、チュンたちの獅子舞の一挙手一投足に、思わず拳を握り締め、熱い歓声を送っていることだろう。

中国アニメーションの真髄とも言えるCG技術

 また映像表現にも着目したい。中国のCGアニメーションの技術はとても高く、日本だけでなく、CGの本場のアメリカとも十分に競っている。本作の特徴として、映像表現は写実的な印象を受ける。登場人物のキャラクターデザインも極端に等身をいじることはせず、萌えを意識したようなデフォルメがない。このまま実写映画になっても、違和感がないような映像だ。だからこそチュンが暮らす郊外の町並などにリアルを感じ、背景の自然の美しさに見惚れ、彼らの境遇に感情移入がしやすい。まさに等身大の、その場にいる人物のように感じられる。

映画『雄獅少年/ライオン少年』特別MV

 そして獅子舞の迫力はまさに圧巻の一言で、毛並みの1本1本にまでこだわり抜いたであろう美術から、その演舞に至るまで、なぜチュンがこれほどまでに獅子舞に惚れ、そしてこだわるのかという説得力がある。日本人の多くは獅子舞の存在を知っているだろうが、ここまで熱くなれる競技だと感服し、それが作品の魅力に繋がっていく。

 社会性・エンタメ・映像美。この3つが絡み合った時、この作品は雄弁なメッセージを放つ。それは格差社会や貧困の中であろうとも、決して失ってはならない夢と情熱を追いかけること。それこそが、まさに生きることそのものなのだ、という熱い思いだ。これほどのストレートでまっすぐな思いは、日本人が忘れてしまったものを思い起こさせてくれるし、チュンのように過酷な環境で生きる人々にも希望となるだろう。

 日本と中国はフィクションの好みが似ていると言われている。何をやってもダメな少年が、きっかけ1つで成り上がるというのは『ドラえもん』ののび太くんに近く、日中ともに大きな人気を獲得している。中国で大ヒットを記録したということは、日本人の琴線に触れる可能性も大いにあるということだ。中国で大ヒットした本作を、ぜひ劇場で楽しんでいただきたい。

参考

※ https://core.ac.uk/download/80598912.pdf

■公開情報
『雄獅少年/ライオン少年』
全国公開中
監督:孫海鵬
エグゼクティブ・プロデューサー:張苗
原題:雄獅少年
声の出演:花江夏樹、桜田ひより、山口勝平、落合福嗣、山寺宏一、甲斐田裕子
配給:ギャガ、泰閣映畫、面白映画、Open Culture Entertainment
2021年/中国語音声/日本語字幕/英題:I Am What I Am
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公式サイト:https://gaga.ne.jp/lionshonen/
公式Twitter:https://twitter.com/lionshonen

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