『雄獅少年/ライオン少年』は『少林サッカー』を想起させる最高の傑作青春映画だ
近年、日本のアニメーション映画が世界で注目される機会が増えたが、近隣アジア発のアニメ映画も凄いことになっている。中国の3DCG映画『雄獅少年 少年とそらに舞う獅子』は2022年に字幕版が限定公開された知る人ぞ知る名作だが、そんな本作がなんと『獅子少年/ライオン少年』の邦題で日本語吹替版が制作され、5月26日に公開される。これが、なんともアツい傑作青春映画なのだ!
テーマは「獅子舞」。祭囃子の中で見かけたことがある、という方もいるかもしれない獅子舞だが、発祥は2世紀頃、魏晋南北朝時代の中国大陸とされている。日本でも厄払い・魔除けの印象が強く、現代中国においても獅子は神に仕える成獣、幸福を呼び寄せる縁起の良い存在として旧正月などの祝い事で舞われてきた。本作の主人公・少年チュンもまた、新春を間近に控えた広場で行われる「新春獅子舞大会」を一目見ようと、自転車をかっ飛ばす。
実は彼はただ広東の田舎にある農村で暮らす少年ではない。“留守児童”だ。“留守児童”とは、両親が都会に出稼ぎして村に取り残される子供である。何千もの彼らは子供たちだけで暮らさなければならず、経済的な問題はもちろん親に頼ることができない孤独感や心理的な問題に悩む。そのため「旧正月になれば出稼ぎ先の建設現場なども休みになって、親が帰ってくる」と、子供たちはその日を待ち望むのだ。チュンもそうである。しかし、彼の両親は帰って来られなかった。その代わりに自分と同じ名前を持つ少女と運命的な出会いを果たし、獅子頭を譲り受ける。そして自分と同じように親が不在である仲間のマオとワン公を誘い、獅子舞バトル全国大会への出場を目指すというのが本作のあらすじだ。
負け犬トリオの少年たちがゼロから獅子舞を学び、特訓し、大会で優勝を勝ち取ろうとする様子は青春スポ根映画的な清涼感が満載。その雰囲気はもちろん、彼らの師匠が元々その道の達人で今は落ちぶれているオジサンという設定や、重そうな麻袋を何個も背負って体力をつけるシーンも含め、本作は劇中で何度も香港映画『少林サッカー』を思い起こさせるのだ。それはつまり、多くの人が気軽に楽しめて、笑って泣ける、最高の映画だということでもある。ギャグの軽快さや、キャラクター同士の関係性にも2000年代の邦画コメディの雰囲気に近いものがあり、アジア圏同士だからこそ理解できる部分も多い。しかし、 “留守児童”の存在や彼らの前に立ちはだかる不条理さなど、同じアジア圏でありながら日本では体感しきれない厳しい現実がそこには描かれている。実際のところ、大会の本戦に参加する直前でチュンの目前に突きつけられる絶望、やるせなさこそが本作のシンプルで超王道な物語を、よりエモーショナルなものにしているのだ。この映画は“単なる負け犬”がのし上がっていく話に止まらない。神の存在さえ疑うほど、理不尽さの中で生きることを強いられたアンダードッグが「そんな僕らには、たった一度のチャンスもないのか?」と歯を食いしばり、自ら運命を切り開いていくからこそ、心震わせられる。