『雄獅少年/ライオン少年』は『少林サッカー』を想起させる最高の傑作青春映画だ

『雄獅少年/ライオン少年』は傑作青春映画

 しかもチュンの挑む大会は旅費や宿代は出るとチラシで触れられているものの、“賞金”については出るのか出ないのかさえ不明のまま話が進むのが面白い。彼の最初の参加動機は、その旅費で広州に行き、「両親に会って良いところを見せたい」というものだった。ここにも“留守児童”として彼が抱える孤独感が垣間見える。マオも「かわいい女の子に会えたら嬉しいから」、ワン公も「食費が大会持ち」だから、という理由で参加する。貧しい家庭で生まれ育った子供として“一攫千金”を目指すストーリーにすることだって簡単だったはずだが、本作はそういう話ではない。不条理に流されるしかない日々の中で、望まない環境、望まない自分を強いられてきた者が「自分は何者か」、ただそれだけを自らの力で突き止めようとするアイデンティティの追求に終始しているのである。だからカッコよくて、アツいのだ。

 トリオだけじゃない。彼らを取り巻く周囲の人物たちも自分に嘘をついてきたり、情熱を諦めざるを得ない状況に追いやられたりしてきた。そのどうしようもなさの中で、それでももがいてみたい。伝統芸能として尊敬される一方で、劇中で“それだけじゃ食っていけない”と何度も言われる獅子舞の踊り手。稼げる仕事じゃないことが強調される一方で、この獅子舞に自分の持つ全てを賭ける者たちがいる。彼らのその熱を見事体現したのが、豪華声優陣だ。主人公チュンを演じるのは『鬼滅の刃』シリーズの竈門炭治郎役でもお馴染みの花江夏樹。同名のヒロインを桜田ひよりが演じ、仲間のマオとワン公を山口勝平と落合福嗣がそれぞれ演じる。極め付けに、トリオの師匠となるチアンを山寺宏一、その妻アジェンを甲斐田裕子が演じており、一流の演者たちによる演技が堪能できる。これも本作の見やすさであり大きな魅力の一つと言える。

 カメラワークや演出もかなりこだわっていて、全体的なレベルがかなり高い本作。獅子舞の歴史を解説する冒頭があけると、私たちは主人公チュンの姿を捉える前に一匹の痩せ細った野良猫を目にする。

「もうひ弱な子猫と馬鹿にされるな、獅子になれ」

 時には乗り越えられない困難にぶつかっても、心の吠える声に従うチュン。そんな彼は果たして“獅子(ライオン)”になれるのか。その圧巻な勇姿は大きなスクリーンで観るに値する。

■公開情報
『雄獅少年/ライオン少年』
全国公開中
監督:孫海鵬
エグゼクティブ・プロデューサー:張苗
原題:雄獅少年
声の出演:花江夏樹、桜田ひより、山口勝平、落合福嗣、山寺宏一、甲斐田裕子
配給:ギャガ、泰閣映畫、面白映画、Open Culture Entertainment
2021年/中国語音声/日本語字幕/英題:I Am What I Am
©BEIJING SPLENDID CULTURE & ENTERTAINMENT CO.,LTD ©TIGER PICTURE ENTERTAINMENT LTD. All rights reserved.
公式サイト:https://gaga.ne.jp/lionshonen/
公式Twitter:https://twitter.com/lionshonen

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