甲本雅裕が生んだ“神回” 『どうする家康』に刻んだ夏目広次という人間の生きる道
大河ドラマ『どうする家康』(NHK総合)の第18回「真・三方ヶ原合戦」は、いまのところ本作の“神回”の一つといえるものだった。松本潤が演じる主人公・徳川家康とその家臣たちの、真の絆に胸を打たれる物語が展開したのだ。この回の主役の座を獲ったのが甲本雅裕。彼が演じていたのは徳川家家臣の一人、夏目広次だ。あのどうにも冴えない夏目なのである。
武田信玄(阿部寛)が率いる武田軍の強さを前に、徳川軍が圧倒されていた三方ヶ原合戦。第17回「三方ヶ原合戦」の終盤では、まさかの家康が討ち取られたかに思えたものの、彼は本作の主人公であり、史実を踏まえればそんなはずはない。次の第18回「真・三方ヶ原合戦」でその真相が明らかとなった。そんな誰もが固唾を呑んで見守る回で注目を集めたのが、夏目広次である。彼が自身を「家康だ」と偽り、大切な殿の身代わりになったのだ。
家康の身の回りの者たちが各話の“主役の座”を獲ることはこれまでにも多々あった。第10回「側室をどうする!」のときのお葉(北香那)や、第12回「氏真」のときの今川氏真(溝端淳平)。それから、三河一揆で家康と敵対した本多正信(松山ケンイチ)や、たびたび登場しては話題をさらう服部半蔵(山田孝之)などもそうだ。この者たちがそれぞれ展開するエピソードの中心に立ち、家康に影響をもたらしては彼の成長を促してきた。今回の三方ヶ原合戦で自身の身代わりとなって討ち死にした夏目は、家康にとって非常に大きな存在として心に刻まれたことだろう。
けれども、夏目役の甲本雅裕の演技は決して重々しいものではなかった。むしろ何かから解き放たれたような、軽やかさすら感じさせるものだった。これまでは影が薄く、いつも控えめに振る舞っていた男の性格を、最後の最後まで体現してみせていたのだ。