『インディ・ジョーンズ』はいびつな映画? 残酷描写に表れたスピルバーグの思想
父と子の和解
もう一つこのシリーズを観ていて思うのは、「父と子」というスピルバーグの永遠のテーマが、最も色濃く描かれていることだ。
初期スピルバーグ作品において、父親が不在であることはよく知られている。『ジョーズ』の主人公ブロディは妻と子供を置いて海へ、『未知との遭遇』の主人公ニアリーは宇宙へ旅立った。『E.T.』(1982年)に至っては母親と別居中という設定で、全く物語に関与しない。
半自伝作品『フェイブルマンズ』(2023年)では両親の離婚が赤裸々に語られていたが、一時期スピルバーグは父親のアーノルドが母親を捨てたのだと嫌悪感を抱き、意識的に距離を取っていたという。その屈折した想いが、彼のフィルモグラフィーには濃厚に刻印されている。
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『レイダース』、『魔宮の伝説』のヒットを受けて作られた第3作『最後の聖戦』に、インディの父親を登場させようと提案したのは、他ならぬスピルバーグだった。元々3部作として考えられていた最終章を飾るにあたり、彼は「父と子の和解」をストーリーの中心に据える。『007』へのリスペクトから生まれたシリーズなのだから、インディの父親ヘンリーには、初代ジェームズ・ボンド=ショーン・コネリーこそが相応しい。かくして本作は、父親を遠ざけていたスピルバーグがその絆を取り戻す、記念碑的作品となった。
そして、『最後の聖戦』から19年ぶりに公開された『クリスタル・スカルの王国』。シリーズ第1作『レイダース』のヒロイン・マリオン(カレン・アレン)が再登場し、インディとの間にマット(シャイア・ラブーフ)という子供が生まれていたことが発覚する。天涯孤独の身だったインディは、今度は父親として息子と接することに。『最後の聖戦』が父子の和解の物語とするなら、『クリスタル・スカルの王国』はインディ版『そして父になる』的な物語なのである。
“エクストリームな残酷描写”と、“父子の和解”という胸アツなストーリー。このいびつさにこそ、『インディ・ジョーンズ』シリーズの本質があるような気がしてならない。
2012年にディズニーはルーカスフィルムを買収して、『スター・ウォーズ』と一緒に『インディ・ジョーンズ』の所有権も獲得している。そしてさらにパラマウントから配給権も買い取り、新作を自由に製作できる環境が整ったことで、最新作『運命のダイヤル』が公開されるに至った。
監督はスピルバーグからジェームズ・マンゴールドに交代したが、“エクストリームな残酷描写”と“父子の和解”という要素に着目して、その公開を楽しみに待ちたいと思っている。
参考
・https://faroutmagazine.co.uk/steven-spielbergs-rejected-james-bond-pitch-indiana-jones/
・https://www.gamesradar.com/the-story-behind-raiders-of-the-lost-ark/
・https://www.hollywoodreporter.com/movies/movie-news/indiana-jones-temple-doom-changed-mpaa-ratings-system-999618/
・DVD「インディ・ジョーンズ コンプリート・アドベンチャーズ」メイキング特典
■放送情報
『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』
日本テレビ系にて、5月19日(金)21:00~23:19放送 ※25分枠拡大
監督:スティーヴン・スピルバーグ
製作総指揮:ジョージ・ルーカス、ハワード・カザンジャン
製作:フランク・マーシャル
原案:ジョージ・ルーカス、フィリップ・カウフマン
脚本:ローレンス・カスダン
音楽:ジョン・ウィリアムズ
出演:ハリソン・フォード、カレン・アレン、ポール・フリーマン、ロナルド・レイシー、ジョン・リス=デイビス、デンホルム・エリオット、アルフレッド・モリナ、ウォルフ・カーラー、ウィリアム・フットキンス
TM & ©1981, (2023) Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved. Used Under Authorization.
『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』
日本テレビ系にて、5月26日(金)21:00~23:19放送 ※25分枠拡大
監督:スティーヴン・スピルバーグ
製作:ロバート・ワッツ
原案:ジョージ・ルーカス
脚本:ウィラード・ハイク、グロリア・カッツ
音楽:ジョン・ウィリアムズ
製作総指揮:ジョージ・ルーカス、フランク・マーシャル
撮影:ダグラス・スローカム
編集:マイケル・カーン
プロダクション・デザイン:エリオット・スコット
出演:ハリソン・フォード、ケイト・キャプショー、キー・ホイ・クァン、アムリッシュ・プリ、ロシャン・セス、フィリップ・ストーン、ロイ・チャオ、リック・ヤン、チュア・カー・ジョー、ダン・エイクロイド
TM & © 1984, (2023) Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved. Used Under Authorization.
『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』
日本テレビ系にて、6月23日(金)21:00~23:29放送 ※35分枠拡大
監督:スティーヴン・スピルバーグ
製作:ロバート・ワッツ
原案:ジョージ・ルーカス、メノ・メイエス
脚本:ジェフリー・ボーム
音楽:ジョン・ウィリアムズ
製作総指揮:ジョージ・ルーカス、フランク・マーシャル
撮影:ダグラス・スローカム
編集:マイケル・カーン
プロダクション・デザイン:エリオット・スコット
出演:ハリソン・フォード、ショーン・コネリー、デンホルム・エリオット、アリソン・ドゥーディ、ジョン・リス=デイビス、ジュリアン・グローバー、リバー・フェニックス、マイケル・バーン、ロバート・エディソン、アレクセイ・セイル
TM & ©1989, (2023) Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved. Used Under Authorization.
『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』
日本テレビ系にて、6月30日(金)21:00~23:24放送 ※30分枠拡大
監督:スティーヴン・スピルバーグ
製作総指揮:ジョージ・ルーカス、キャスリーン・ケネディ
製作:フランク・マーシャル
原案:ジョージ・ルーカス、ジェフ・ネイサンソン
脚本:デビッド・コープ
撮影監督:ヤヌス・カミンスキー
音楽:ジョン・ウィリアムズ
出演:ハリソン・フォード、カレン・アレン、ケイト・ブランシェット、レイ・ウィンストン、ジョン・ハート、ジム・ブロードベント、シャイア・ラブーフ
TM & ©2008, (2023) Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved. Used Under Authorization.