『ヘル・レイザー』から『X エックス』まで恐怖の進化を辿る 各国対抗ホラー映画を堪能

 本作や『悪魔のいけにえ』に始まるスプラッター映画は、アカデミー賞に取り沙汰されるようなことのないジャンルの作品として、正当な評価を受ける機会が少ない。劇中にクルーが撮影しようとするポルノ映画もまた、同じだ。どれだけ新しいことを意識して芸術性を高めようと、観客が気にするのはセックスシーン。そのセックスシーンは本作における殺人(キャラクターの死亡)シーンと重なり、メタ的に映画の中の映画作りが、本作そのものを紐解いている。加えて、いわゆる“ファイナルガールの概念”など従来のスプラッター映画「あるある」をふんだんに混ぜ込んでおいて、その定石を覆すのが本作の魅力。ご老人がやばい映画は他にもたくさんあるが、多くの場合ただの“殺人鬼”という記号でしかなかった彼らを、『X エックス』はそのパーソナリティを深掘りすることで“登場人物”として扱った。そういったアップデートとともに、タイ・ウエスト監督がジャンル映画に向けられる皮肉を込めた本作は、凄まじいゴア描写を通じて鮮烈な印象を私たちに与える。

『ヘル・レイザー』©︎2019 VINE LSE INTERNATIONAL IV, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

 ゴア描写といえば語ることを避けられないのがイギリス発の『ヘル・レイザー』(1987年)である。本作もまた、『悪魔のいけにえ』に続くクラシックホラーとして高く評価され、グロテスクな描写がふんだんのジャンル映画でありながらもシリーズが10作目まで作られた。大人気ホラーゲーム『Dead by Daylight』にも本作に登場する魔導士(セノバイト)のピンヘッドがプレイアブルキャラクターとして登場し、2022年にはリブート版の『ヘルレイザー』も公開。この人気っぷりは目を見張るものがある。

 “究極の快楽を体験できる”というアイテム、「ルマルシャンの箱」を中心に描かれる人間の業と異世界の存在、そして暴力的なファンタジー。先述の『X エックス』のように、シリーズを通して凄まじいバイオレンス描写が繰り広げられる『ヘル・レイザー』は、まさに非現実的なおとぎ話として楽しめられる。監督を務めたクライヴ・バーカーが “パンク文化やカトリック教会、そしてSMクラブに影響を受けて作った”と公言しているように、苦痛を快楽として描く点が興味深い一作。ホラー映画とひとえにいってもさまざまなジャンルがあるが、本作は世代を超えて根強く愛され続けられる“スプラッター”の魅力に立ち返ることができる。

『N号棟』©︎「N号棟」製作委員会

 スプラッター映画の熱量が絶えない中、ゴーストストーリーも時代を通して変化していく。ジャパニーズホラーはこの分野において『リング』や『呪怨』など数々の名作を放ち、世界的に高く評価されてきた。そんな邦画ホラーの現在地を測る上で興味深い1作が後藤庸介監督の『N号棟』だ。清水崇監督による「恐怖の村シリーズ」や永江二朗監督の『きさらぎ駅』など、近年はネット上に転がる都市伝説をモチーフにした恐怖作品が目立つ。『N号棟』もこの例に漏れず、2000年に岐阜県富加町で起きた「幽霊団地事件」という実話をもとに描かれた。“富加町のポルターガイスト”の異名をもつ本件は、公営住宅地に住む住人たちが口を揃えてポルターガイストなどの霊障に脅かされていると訴え、各局が取材に押し寄せた騒動として知られる。しかし、実際のところポルターガイスト現象はカメラに収められることなく、住民たちの自作自演なのではないかと霊の存在が証明されることはなかった。

 そんな騒動をモチーフにした本作は、3人の大学生が自主映画を撮るために霊が出ると噂のたつ廃団地に訪れ、恐怖を味わうホラー映画。一見ありがちな物語だが、本作は萩原みのり演じる主人公に「タナトフォビア(死恐怖症)」という設定を与え、彼女に幽霊の存在を信じることを通して死生感について考えさせる。『X エックス』が老婆をただの殺人鬼と描かなかったのと同じように、幽霊がただの恐怖対象として消費されない。そういったゴーストストーリーに対する新たなアプローチと、『ミッドサマー』(2019年)以降急激に増えた和製フォークロアホラーの要素が組み合わさった本作は、まさに邦画シーンにおけるホラーのトレンドが何か実感させてくれる。

 紹介しきれない数のホラー映画が、配信には溢れている。それらが映す恐怖の対象の移り行き、そしてジャンルそのものの行方を占うところに、各国それぞれの作品を見比べる楽しさがあるのではないだろうか。

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■配信情報
各国対抗ホラー映画特集、WOWOWオンデマンドで期間限定公開中

『X エックス』
WOWOWシネマにて、5月5日(金・祝)01:00~放送
WOWOWオンデマンドにて配信中
©︎2022 Over The Hill Pictures LLC All Rights Reserved.
配信ページ

『女神の継承』
WOWOWシネマにて、5月29日(月)02:40~放送
WOWOWオンデマンドにて配信中
©︎2021 SHOWBOX AND NORTHERN CROSS, ALL RIGHTS RESERVED.
配信ページ

『N号棟』
WOWOWオンデマンドにて配信中
©︎「N号棟」製作委員会
配信ページ

『ヘル・レイザー』
WOWOWシネマにて、5月16日(火)03:20~放送
WOWOWオンデマンドにて配信中(5月31日(水)まで)
©︎2019 VINE LSE INTERNATIONAL IV, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
配信ページ

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