『舞いあがれ!』から『おとなりに銀河』へ 八木莉可子は“初恋の物語”の体現者だ

 八木莉可子が、“初恋の物語”への出演が続いている。

 この先10年は彼女の代表作として語り継がれていくであろう『First Love 初恋』(Netflix)。そして現在放送中の夜ドラ『おとなりに銀河』(NHK総合)。初恋のようなトキメキとして捉えるならば、朝ドラ『舞いあがれ!』(NHK総合)もそこに含まれるかもしれない。

Netflixシリーズ『First Love 初恋』

 初恋の記憶が3つの時代を舞台にして紡がれる『First Love 初恋』。ヒロインである野口也英の学生時代と結婚し、出産するまでを八木が演じている。その出産から先の也英の人生を満島ひかりが担当しているわけだが、八木には八木だけの輝き、純真さがある。「好きな食べ物なんですか?」――並木晴道(木戸大聖/佐藤健)との出会いによって互いに見えてくる生きる意味と進むべき道。『First Love 初恋』は理性よりも五感の刺激によって生まれた感情が美しく描かれている作品だが、その色褪せない記憶の中にはいつも八木が演じる也英がいる。晴道と過ごす瑞々しく、純朴な笑顔の一方で、不慮の事故により断片的な記憶を失くした八木の虚ろな表情は光と影のコントラストとなって色濃く記憶に残り続ける。4月6日放送の『あさイチ』(NHK総合)に八木が初出演した際、キャスターの鈴木奈穂子アナウンサーが開口一番に「First Love」が聴こえてくるようだと興奮気味に話していたのが忘れられない。NHKとしては絶対に『舞いあがれ!』の話題が先のはずだが、それでも理性よりも感情が突き動かされてしまう無意識的記憶、まさにプルースト効果である。

『舞いあがれ!』八木莉可子抜擢の理由をCPが明かす 「切実な思いが彼女の中にはある」

『舞いあがれ!』(NHK総合)第19週より、舞(福原遥)と貴司(赤楚衛二)の間に突如として秋月史子(八木莉可子)が現れた。  …

 『First Love 初恋』の配信開始から約3カ月後という、ある種ベストタイミングに八木は『舞いあがれ!』に登場。最終回を終えた今、『舞いあがれ!』全体を振り返った時、岩倉舞(福原遥)と梅津貴司(赤楚衛二)が気持ちを確かめ合う第20週までは一つのクライマックスとも言える。その2人の背中を押す役割にあり、同時に貴司のファンを超えて恋心を抱くのが八木が演じる歌人の秋月史子という役だ。

 貴司が店主を務めるデラシネを訪ねてきた際はどこか自信のなさそうだった史子だが、貴司に短歌を褒められ、肯定されることで生き生きとした表情を浮かべていく。八木の演技をもって史子の心情がありありと語られていくようだ。どこまでもピュアで、芯の強い女性という点は、『First Love 初恋』の也英とも通ずる部分。貴司の“灯火“になることが叶わなかった史子は、歌人として新たな道を歩き出していく。八木は自身のチャームポイントを「目」と捉えているようだが、通い慣れた「うめづ」を横目に涙を流しながら、下唇を噛み締め、真っ直ぐ前を見据えるラストは、八木の芝居を最大限に生かしながら史子の生き方を体現したシーンだった。『舞いあがれ!』の桑原亮子が脚本を担当した2020年放送のオーディオドラマ『君を探す夏』(NHK FM)で八木は主演を務めており、桑原の中で史子という役には最初から八木がイメージとしてあったという。つまりそれは当て書きでもあり、制作陣から必要とされる求心力を持った俳優とも言えるだろう。

 朝ドラという場所でその認知度を広げた八木は、4月3日よりスタートの夜ドラ『おとなりに銀河』でヒロインの五色しおり役を演じている。全32回のもうすぐ折り返しを迎えるという段階だが、冒頭で先述している通りに初恋の物語という点でも、ピュアなしおりのキャラクター性においても、これまた八木のハマり役と言える。

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