西野七瀬、『シン・仮面ライダー』は“悪役俳優”の真骨頂 『あな番』から積み上げた経験

 庵野秀明監督の映画『シン・仮面ライダー』が現在公開されている。同作は仮面ライダー生誕50周年企画作品として制作され、テレビシリーズ『仮面ライダー』や石ノ森章太郎の原作漫画『仮面ライダー』(講談社)といった原作のオマージュを取り入れながらも、庵野監督による解釈で新たに生まれ変わった。この春の超大作と言える同作には池松壮亮や浜辺美波、竹野内豊、斎藤工など著名な俳優陣が集結しているが、その中でも大きなインパクトを与えているのが西野七瀬である。

 同作に西野が出演する、それも仮面ライダーの敵として登場すると聞いた時に真っ先に思い浮かんだのが『あなたの番です』(日本テレビ系/以下『あな番』)の黒島沙和だ。それまではどちらかというと清純で正統派な役を演じてきただけに、同作でのサイコキラーな側面は多くの視聴者を恐怖のどん底に落とすことになった。本稿ではそんな西野の悪役俳優としての活躍を振り返ってみたい。

 乃木坂46時代には『電影少女 -VIDEO GIRL AI 2018-』(テレビ東京系)の天野アイや『あさひなぐ』の東島旭といった自身のパーソナリティをトレースした役を引き受けることが多かった西野。2018年にグループを卒業して以降は本格的に俳優としてのキャリアを歩み、幅広い役柄を演じてきた。2022年1月にはスタンド「華」のママ・近田真緒を演じて話題となった映画『孤狼の血 LEVEL2』で、第45回日本アカデミー賞優秀助演女優賞・新人俳優賞を受賞するなど、着実に俳優としてステップアップを続けている。

 そんな西野にとって大きな転機となったのが、2019年に放送された『あな番』だ。当時は俳優として代表作といえるものがまだ少ない中で、西野は同作において非常に重要な役を任された。それが黒島だった。黒島はミステリアスだが、見た目は普通の女子大生であり、当初は犯人探しに協力するいわばヒロイン的なポジションだったが、その実体は殺人衝動を常に内に秘めたサイコパスな殺人犯。放送時から黒島の黒幕説が囁かれていたものの、最終話で西野が殺人を告白するシーンは強烈なインパクトを残した。ベッドで横たわる手塚翔太(田中圭)に対し、蔑むような瞳で淡々とこれまでの殺人を告白し死の選択を迫る場面では、これまで清純なアイドルというパブリックイメージがあったがゆえに、恐怖がより強く描き出されていた。

 乃木坂46の卒業生ということもあって、当時は西野の演技に対して懐疑的な意見も散見されたが、俳優としての経験が浅かった西野だからこそ、そのぎこちなさが作中を通して黒か白かわからない黒島というキャラクターにハマったとも言える。

 その後は映画『ホリック xxxHOLiC』や『恋は光』、『アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋』(フジテレビ系)など活躍の幅を広げていくなかで、『あな番』で強く印象づけた悪役を演じることはまったくなかった。しかし、西野が2021年に主演を務めたドラマ『言霊荘』(テレビ朝日系)では悪役俳優としての西野の会心の演技を見ることになる。正式には悪役というカテゴリーではないものの、呪縛霊に取り憑かれたコトハが天井を見上げて白目を剥き、レイシ(永山絢斗)に対し「気安く触るな!」と腕を振りほどくシーンは、『あな番』にも通ずるものを感じた。唯一異なるのは西野が俳優としての経験値を積み重ねてきたということだ。これによって清純であるがゆえでの危うさに身を任せていた『あな番』とは違って、地に足のついた演技でエキセントリックな場面を見事に演じることに成功していた。

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