今泉力哉は「好きとは何か」を問い続ける 『ちひろさん』が描く必要だった時間

『ちひろさん』が描く必要だった時間

 今泉力哉の映画には、「好き」にまっしぐらな人と、そもそも「好き」がよくわからない人が登場する。

 『サッドティー』(2013年)において、10年間一途にアイドルを思い続ける朝日(阿部隼也)は好きに真っしぐらな人。『パンとバスと2度目のハツコイ』(2017年)で恋人にプロポーズされてたじろぐふみ(深川麻衣)は好きがよくわからない人。『愛がなんだ』(2018年)のテルコ(岸井ゆきの)のように、もはや好きかどうか判然としないけれども対象を追い続ける、ふたつのパターンが混ざったようなキャラクターもいておもしろい。こうしたさまざまな「好き」へのアプローチが描かれるのは、原作ものかオリジナル脚本かにかかわらず今泉映画の特徴のひとつだと言える。

 映画『ちひろさん』で、ちひろさん(有村架純)が友達のバジル(van)に「あんたは誰かに恋したりしないの?」と問われる場面があった。誰かの心を独占したいと思ったことはないのかと。それに対してちひろさんは、「昔はあった」と答えつつ、人の心を独り占めすることなんてできないし、もしそれが恋愛だっていうなら私には必要ないときっぱり答える。この映画においてちひろさんは、好きに真っしぐらな人でも好きがよくわからない人でもなく、好きに「新しい答えを見いだす人」だ。

 恋愛や好きに関するテーマだけでなく、ちひろさんというのは目の前に立ちはだかる壁に対して、自分で思考した言葉を武器に立ち向かう人だと、この映画を観ていると何度も強く思う。リリー・フランキーが演じる、ちひろさんがもともと風俗店で働いていたときの店長・内海との関係性にしてもそう。バジルに恋愛関係を疑われながら、そうではなく父と子のような距離感なのだと自認している。初めて会話したその日から心が通じ合うようだった多恵(風吹ジュン)とは、「私と同じ星の人」なのだと思いを吐露する。相手に対する「好き」の気持ちを、自分にとって必要な言葉でくるんで、大事に抱きしめておく。

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