『舞いあがれ!』大人になった貴司に宿る“強い意志” 父親役は赤楚衛二の真価を引き出す

 これまでの貴司は、「気弱そうだが意思がとても強い」部分の「気弱さ」が勝ってしまって、自分の気持ちを自分の口でうまく伝えられないところがあった。だからこそ、自分の思いの丈を込められる短歌を大切にしていたことはわかる。たとえば、放浪の旅に出る際、貴司は自作の短歌を舞に贈っているが、これは短歌を通して舞に、一方的に思いを吐露していると考えることもできる。歌人として認められ、歌集の出版を勧められた時も、長山出版の編集者・リュー北條(川島潤哉)から自分の短歌に否定的なことを言われても思い悩むだけで、強く言い返すことができなかった。思いを告げる“だけ”、相手から好きなように言われる“だけ”で、一方通行のコミュニケーションになってしまっていたのだ。

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 だが、リュー北條に言われて心をさらけ出し、舞にしっかりと思いを告げた貴司は、大ヒットとなる歌集を出版し、さらには父にもなり……と、さまざまなことを経験して大人になっていった。それにつれて、「気弱そうだが意思がとても強い」部分の「意志の強さ」が全面に出てきている。産後まもなくだというのに、仕事に向かい、育児もこなそうとする舞に貴司は「舞ちゃん、もっと頼って。ふたりで親になったんやから」と自分から声をかけた。相手の状況を見て、自分にできることを口にする。貴司はそんな、簡単そうでなかなかできなかった双方向のコミュニケーションをしていたのだ。そこから親として、また舞の夫として家族を支えていこうという強い意志が見えてくる。

 舞はこれまで、持ち前の失敗を恐れない心と前向きさで、「やろう!」と決意したことをどんどんやり遂げてきた。しかしその裏には貴司の温かくも、しっかりとした支えがあったことを忘れてはならないだろう。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』
2022年10月3日(月)から 2023年4月1日(土)まで
総合:8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:福原遥、横山裕、高橋克典、永作博美、赤楚衛二、山下美月、目黒蓮、長濱ねる、高杉真宙、山口智充、くわばたりえ、又吉直樹、吉谷彩子、鈴木浩介、高畑淳子ほか
作:桑原亮子、嶋田うれ葉、佃良太
音楽:富貴晴美
主題歌:back number 「アイラブユー」
制作統括:熊野律時、管原浩
プロデューサー:上杉忠嗣
演出:田中正、野田雄介、小谷高義、松木健祐ほか
主なロケ予定地:東大阪市、長崎県五島市、新上五島町ほか
写真提供=NHK

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