『エンパイア・オブ・ライト』は“記憶”に関する映画 サム・メンデス監督らにインタビュー

『エンパイア・オブ・ライト』は記憶の映画?

 今作では、映画館がある意味、キャラクターの一つになっている。メンデス監督は、実際に劇場のロビーを再現しているが、どのように適切なロケーションを見つけて、再現したのだろうか。

「今作の映画館は、私が10代の頃によく行った海辺近くの映画館に基づいています。実際の映画館は、今作の映画館よりももっと小さい劇場で、プロダクション・デザイナーのマーク・ティルデスリーが、英国の海辺の街にアートデコレーションされた宮殿みたいな劇場を見つけました。それは今作に、スケールの大きさ、素晴らしさ、放置されたバーの虚しさなど、別次元の新たな要素を与えてくれました。そこから、僕は英国の街マーゲイトに1週間ほど移り、そのロケ地から得られたものを通して脚本を書き直したんです。ただ、映画館のロビーの広さや形状が適切ではなかったため、その映画館から3つ先の空き地に同じ景色を望めるようなロビーを建設しました。そのため今作では、実際の映画館と我々が作ったロビーを使用しているんです」

(左から)サム・メンデス監督、マイケル・ウォード

 撮影監督ロジャー・ディーキンスとメンデス監督とのセットのコラボについて、スティーヴンを演じたウォードは、「実際に彼らのコラボレーションを僕は楽しんで見ていた。ロンドンの撮影初日のリハーサルしている際に、あるシーンを何度も何度もリハーサルしていました。すると、ロジャーが昼過ぎにやってきて、サムに『これとこれとこれがダメだから上手くいかないよ』と告げたんです。それから、サムが『おぉ』と言って周りの全てを変えてしまいました。僕は、ロジャーが一目見たセットアップから全ての情報を得たことに驚き、それと同時に、お互いが信頼しあっていることを理解しました。本当にエキサイティングでした。全体のプロセスはそんな感じで、彼らが協力して作業しているのを見るのは、素晴らしかった」と、2人の信頼関係を高く評価した。

 今作では、1980年代の経済の不況、人種差別などが徐々に理解できるように描かれ、そして突如、大きな出来事が起こる。俳優陣は当時の英国の状況をどのようにリサーチしていたのか。

「まだ生まれていなかったので、当時の社会的な出来事に関して、これまではそれほど意識したことがありませんでした。でも、このスティーヴンというキャラクターに必要な出来事で、それが見事に描かれています。だからこそ、彼の外見とこの社会の観点から、彼が葛藤を持つようになるという事実が、今作では本当に重要になってくると感じました」とウォードが答えると、一方のコールマンは「マイケルのキャラクターは、彼の中で葛藤している間、外ではよりひどい経験しなければなりません。80年代にこのような物理的な激動と人種的な動乱の時代があって、私たちは長い道のりを歩んでそれを乗り越えてきたかのように思えますが、驚くべきことに、実際はまだまだそうではありません。サムはこの脚本をBlack Lives Matterの最中に手がけていますが、長い目で見たときに、人種差別問題が充分に進展していないことに気付かされます」と語り、さらに今作でも触れられている性差別やメンタルヘルスに関しても改善の余地があることを告げた。

 最後に、メンデス監督は半自叙伝的な作品に関わることについて、「自分で書いたもので、半自伝的である場合、客観性を維持するのは非常に難しいと思う。客観と主観の日々の戦いだからです。私は生まれながらの作家・監督ではなく、私は生まれながらの監督だと思っています。しかし、私は他人の作品を愛し、それを出発点にして、他人の言葉がもたらすエネルギーが好きなんです。私は舞台出身ですが、劇作家はある意味で中心人物で、それは私にとって自然なフィットではなく、その駆け引きに苦労してきた過去があります。今作には、2人の私が登場しています。1人は子供の頃、母親の衰弱を観察していた頃の私。もう1人は、80年代初頭、10代の頃に映画を観たり、音楽を聴いたり、大きな人種差別問題や失業などを抱えた政治情勢の中にいた頃の私。きっと、過去を回帰して遠くに行くことで、自分の人生の立ち位置を理解できるのかもしれません」と締めた。

■公開情報
『エンパイア・オブ・ライト』
TOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開中
監督・脚本:サム・メンデス
出演:オリヴィア・コールマン、マイケル・ウォード、コリン・ファース、トビー・ジョーンズ、ターニャ・ムーディ、トム・ブルック、クリスタル・クラークほか
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
2022年/イギリス・アメリカ/原題:Empire of Light
©2022 20th Century Studios. All Rights Reserved. 

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