『大奥』冨永愛が中島裕翔に情報収集を任せる ドラマオリジナル描写に込められた願い
そんな藤波の思いを受け、吉宗は「私には人の心が分からぬのかもしれぬ」と物思いに耽る。それに対し、「何一つ欠けることがない者など、果たしてこの世におるのでございましょうか」と反語的に問いかけるのが、質素倹約の姿勢を吉宗に買われた杉下(風間俊介)だ。足りないところがあるのであれば、自分はもとより久通(貫地谷しほり)もそれを補う所存であろうと。
その後、吉宗は片桐はいり演じる町医者・小川笙船の投書により、貧しい民が無料で診察を受けられる小石川養生所の設立に奔走する。決してそれも吉宗一人で成し遂げられたわけではない。日頃から貧しい者たちの治療にあたる笙船の投書があったからこそ、窮状に気づくことができたのだし、久通や忠相の妙案で養生所設立後、薬の実験台にされるのではと怯える者たちの心を掌握することができた。そして、原作にはない展開だが、吉宗は水野改め町人・進吉(中島裕翔)に養生所で使う薬草の栽培と、赤面疱瘡撲滅のために情報収集を依頼する。赤面疱瘡が治る病になれば男の数が安定する、ひいては女も今ある役割を男に任せられる。世の中の女をまとめて幸せにするのが自分の使命だという水野。
亡き村瀬が編んだ『没日録』には「赤面疱瘡によって滅びゆく国を見届けよ」という意味が込められていた。たしかに、赤面疱瘡が日本でしか存在しない奇病であるのならば、腕っぷしの弱い女性たちが人口の大半を占めるこの国はいつか外国に攻められ、滅びるかもしれない。そうならないためにも赤面疱瘡の解決は急務だが、その先にあるのが単純に腕っぷしの強い男が世を支配する未来ではなく、男と女が、民と官が、手と手を取り合い、足りないところを補い合って、世を作る未来であってほしいという願いがオリジナルの要素が強い今回のエピソードには込められていたように思う。そして、また今秋から始まる『大奥』シーズン2となる「医療編」「幕末編」に向けた布石もたくさん散りばめられた回であった。
■放送情報
ドラマ10『大奥』
NHK総合にて、毎週火曜22:00~22:45放送
出演:福士蒼汰、堀田真由、斉藤由貴、仲里依紗、山本耕史、竜雷太、中島裕翔、冨永愛、風間俊介、貫地谷しほり、片岡愛之助ほか
原作:よしながふみ『大奥』
脚本:森下佳子
制作統括:藤並英樹
主題歌:幾田りら
音楽:KOHTA YAMAMOTO
プロデューサー:舩田遼介、松田恭典
演出:大原拓、田島彰洋、川野秀昭
写真提供=NHK
©よしながふみ/白泉社