正念場のMCU 『アントマン&ワスプ:クアントマニア』MVPはピムとジャネットの老夫婦

 今回はマイケル・ダグラスが最高だ。主に80~90年代に映画少年だった私にとってマイケルといえば、女性にいろんな意味で振り回される役を十八番にしている人物であり、スキャンダラスな私生活で、有名人の芸能ゴシップを追いかける楽しさを教えてくれた人物でもある。そんな彼がステージ4の末期ガンから奇跡的に復帰したときの驚きは、今でも忘れないし、そのあとの「俺がガンになったのはクンニリングスをしすぎたからだ」という堂々たる発言には、すでに成人していた私も圧倒された記憶がある。

 そんなマイケルが本作では全力投球をしているのだ。どうも妻が量子世界で自分以外の男とロマンス的なことがあったらしいと知ったときの、あの何とも言えない「まぁそりゃ仕方ないけれどもさ」と言わんばかりの立ち振る舞い、愛しさと切なさと心強さとは、まさにこのことである。そんなコミカルな演技で魅せつつ、クライマックスに見せる渾身のキメ顔は真っ当にカッコいい。対するミシェル・ファイファーも、かつてキャットウーマンを演じた人物だ。量子世界をズンズンと闊歩する姿は頼もしく、意味不明の挨拶をするところでシッカリ笑いもとっていく。今回のMVPは間違いなくこの2人だろう。本作も昨今のマーベルが抱える敷居が高い問題を抱えている。しかし、「よく分からんところもあるが面白い」というエンターテインメント作品としての及第点には十分に達していると言える。

 前述のとおり、MCUが巨大化により正念場を迎えているのは事実だ。しかし、かつて『アイアンマン』(2008年)から始まったシリーズが、暗中模索のすえに『アベンジャーズ/エンドゲーム』で結実したように、この正念場を乗りこえて、現在進行形で広がり続けているこの巨大風呂敷が最高の形で畳まれることを祈りたい。そういえば、そもそも『アイアンマン』から『アベンジャーズ』(2012年)に繋げると聞いたときも「ホントにできるのかよ?」と勝手に心配していた記憶がある。あの頃の初心を取り戻し、今後も「大丈夫かな?」と木の陰からそっとMCUを心配半分、期待半分で見守っていきたい。とはいえ目下、2024年9月全米公開予定の『ブレイド(原題)』が心配でなりません。

■公開情報
『アントマン&ワスプ:クアントマニア』
全国公開中
監督:ペイトン・リード
製作:ケヴィン・ファイギ
出演:ポール・ラッド、エヴァンジェリン・リリー、マイケル・ダグラス、ミシェル・ファイファー、ジョナサン・メジャース、キャスリン・ニュートン、ビル・マーレイ
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©Marvel Studios 2023

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