火を失った人類はどうなる? 西村純二×押井守『火狩りの王』が内包する人類最大のテーマ
「火と文明」という人類の大テーマを内包
本作で最もユニークなポイントは、人類が火を使えなくなってしまったという点にある。
火を使えないということは、人類が文明のほとんどをあきらめなければいけないということだ。それは人類の引き起こした最終戦争がきっかけとなっているが、戦争とは人類の火の使い方として最も愚かしいものと言えるだろう。創造主はそんな人類から火を取り上げ、野性の獣たちに火を託したのが本作の世界なのだ。
火を使えない人間は、自然界の中ではとても弱い存在で、生きることには大変な苦難が伴う。そんな世界でもはたして生きる価値はあるのかとこの物語は問いかける。生き残ったわずかな人類はまだ争いをやめていないし、自然も、人間社会も理不尽なことが当たり前に存在している。しかし、登場人物たちはそんな世界でまだ懸命に生き続けようとしている。
火をどのように扱うべきなのかという、本作が投げかける問いかけは、人類史の大テーマだ。火がもたらした恩恵はやがて、重火器を生み出し、人が人を殺すために利用された。原子爆弾などはその究極の存在と言えるだろう。ギリシャ神話の「プロメテウスの火」を連想する人もいるだろう。このように火が象徴する文明の行き付く先が崩壊であるという物語は、これまでにも繰り返し語られてきたし、20世紀以降の核戦争の恐怖は、それが絵空事ではないかもしれないと私たちに思わせる。文明の恩恵をもたらした火の過剰利用によって、今、人類は自らを追い詰めているのだ。
煌四は炎魔からとれる火を用いた武器の製造に関わることになるのだが、それは、崩壊後の世界でも火を武器として利用せんとする人々がいるということだ。どうあっても人は火なしには生きられないのだろうか。本作には、火を手放せない人類の業の深さがありありと描かれている。
火は災いと恩恵を同時に人類にもたらした。このことをいかに考えるべきかという極めて深遠な問いを本作は投げかけているのだ。
生きるとはどういうことか
灯子と煌四は、それぞれの事情で翻弄され、世界の秘密に向き合うことを余儀なくされる。その冒険と探索の過程は、血沸き肉躍るものというよりは、恐ろしくおぞましいものと2人には感じられる。
にもかかわらず、2人は歩むことを止めない。特別に秀でた存在でもない彼女たちは、仲間たちと満身創痍になりながら、それでも勇敢に世界の秘密へと迫っていく。
文明を持てない人類に対して、世界は優しくない。この作品はその優しくない部分を正直に描いている。残酷な世界に対して、それでも生きることを諦めない登場人物たちの姿勢は、現代の私たちにはとても鮮烈に映る。
世界に対して嘘のない姿勢で描かれるからこそ、登場人物たちの勇気もただの絵空事ではなくなる。『火狩りの王』は、そういう誠実さに溢れた作品なのだ。
■WOWOWオンデマンドについて
スマホやPCでも見られるWOWOWオンデマンドはBS視聴環境がなくても視聴可能。
さらに、無料トライアルも実施中
申し込み月内は料金なしで体験可能。
■放送・配信情報
WOWOWオリジナルアニメ『火狩りの王』
WOWOWプライム・WOWOWオンデマンドにて、毎週土曜22:30~放送・配信中
原作:日向理恵子 (『火狩りの王』ほるぷ出版刊)
キャラクター原案:山田章博
監督:西村純二
構成・脚本:押井守
キャラクターデザイン:齋藤卓也
総作画監督:齋藤卓也、黄瀬和哉、海谷敏久
エフェクト作画監督:小澤和則
イメージイラスト・プロップデザイン:岩畑剛一
美術設定、中島美佳
メカニックデザイン:神菊薫
クリーチャーデザイン:松原朋広
美術監督:小倉宏昌
色彩設計:渡辺陽子
筆文字:勝又まゆみ
タイトルデザイン・2Dワークス:山崎真紀子
劇中画:水野歌
CG監督:西牟田祐禎
CG制作:レイルズ
特殊効果:櫻井英朗
撮影監督:荒井栄児
編集:植松淳一
監督助手:菅野幸子
音楽:川井憲次
音響監督:若林和弘
音楽制作:フライングドッグ
音響制作:プロダクション I.G
アニメーション制作:シグナル・エムディ
公式サイト:https://hikarinoou-anime.com/
公式Twiter:@HikarinoOuAnime
配信URL:https://wod.wowow.co.jp/program/170247
WOWOW公式YouTubeにてノーカット公開中
第1話「旅立ち」:https://youtu.be/2_yM7MwerDY
第2話「三人の花嫁」:https://youtu.be/7hmONi-zNdk