広瀬すずが話す“空豆語”は一つの発明? 『夕暮れに、手をつなぐ』を言語から読み解く

『夕暮れに、手をつなぐ』を言語から読み解く

 「空豆語」が本作にもたらす効果はかなり大きいものだと感じる。その一つが、作品の世界観の提示である。ありそうでない架空の言語を用いることでフィクション性が高まり、“結婚”を夢見て上京してきた空豆の突飛なシンデレラストーリーは強度を得る。言語によってフィクション(=アンリアル)の部分を全面に押し出すことで、いってしまえば“何でもあり”の状態を獲得しているのだ。俳優が扱う方言に対する厳しい意見は絶えないが、「空豆語」は実質それを無効化している。ネイティブ圏の人々からすれば方言の違和感は作品への信頼感を損なうことに繋がるが、また繰り返すようにこれは、この世に存在しない方言なのだ。空豆は度を超えた天真爛漫さを持った自分本位で猪突猛進型の人間だが、彼女が口にするアンリアルな言語は、フィクショナルな彼女の存在そのものをも強化するもの。こう考えてみると、彼女が大都会・東京のいちいちに過剰な驚きを見せるのにも納得ができる。私たちの生きる世界線とは違うところで生きてきたのかもしれないーーそれくらい、空豆は特別なのだ。物語の主人公に相応しい。

 さて、ドラマにおけるリアリティはたびたび大きな注目の的となる。『silent』(フジテレビ系)が好例だろう。同作は社会現象化するまでに至ったが、その理由の一つがリアリティにあった。「スピッツ」の楽曲をはじめ、「LINE」や「タワーレコード渋谷店」など、劇中に登場する固有名詞の数々は、私たちの周りに実際に存在するもの。つまり、劇中に映し出される世界は視聴者にとって真実なのだ。東京在住者以外でも知っている駅ではなく、比較的利用者が多くはない「小田急線世田谷代田駅」にスポットを当てたこともリアリティの獲得に繋がった。対する『夕暮れに、手をつなぐ』に登場する観光スポット「隅田川テラス」などは、タイトルを表現するための記号的なものでしかないし、空豆が憧れる「アンダーソニア」というブランドは存在しない。これらは私たちの生活と地続きのところにあるようで、どこにもないものだ。「空豆語」もこれと同じである。

 昨今のドラマに対する反応を見ていると、リアリティを求めすぎる傾向が作品の評価にも影響を与えているように思う。そのバランスはもちろん大切だが、フィクションとリアルを混同するのは危険ではないだろうか。けれども私たちの生きる現実社会はツラいから、身近に『silent』のような優しさがあるのだと信じたくなるのは同感である。さて、「空豆語」は意味性よりも語感を重視したラップのようだ。リズミカルな心地良さがあり、ドラマの軽快なドライブ感に繋がっている。あくまでもこれはフィクションであって、フィクションにはフィクションの楽しみ方がある。「空豆語」は一つの発明なのだと感じずにはいられない。

■放送情報
火曜ドラマ『夕暮れに、手をつなぐ』
TBS系にて、毎週火曜22:00~22:57放送
出演:広瀬すず、永瀬廉(King & Prince)、川上洋平([Alexandros])、松本若菜、田辺桃子、黒羽麻璃央、伊原六花、内田理央、櫻井海音、茅島成美、酒向芳、遠藤憲一、夏木マリ
脚本:北川悦吏子
演出:金井紘、山内大典(共同テレビジョン)、淵上正人(共同テレビジョン)
プロデューサー:植田博樹、関川友理、橋本芙美(共同テレビ)、久松大地(共同テレビ)
編成:三浦萌
制作協力:共同テレビジョン
製作著作:TBS
©︎TBS
公式Twitter:@yugure_tbs
公式Instagram:yugure_tbs
公式TikTok:@yugure_tbs

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