『舞いあがれ!』舞と貴司の“言葉にしない”もどかしさ 史子との理解の壁が顕在化する

『舞いあがれ!』舞と貴司の関係のもどかしさ

 だがその帰り、物産展のお土産を貴司に渡すためデラシネに立ち寄った舞の心は再び曇ることに。いつも貴司と語り合っていた店の奥の部屋には史子がいて、かつての舞と貴司のようにちゃぶ台を囲んでいる。本歌取りと呼ばれる、有名な古歌をオマージュした貴司の作品を舞はすぐに理解できなかったが、史子は即座に解説してみせた。自分と貴司には共通の知識があっただけで、歌の意味を読み取れないのも仕方ないという史子のフォローが余計舞を苦しめる。

 貴司にとって、何でも話せる幼なじみだった自分の存在はもう必要ないのではないか。すっかり自信を失った舞は、貴司の気持ちもお構いなしに加速する史子の暴走をも受け入れてしまう。「先生のそばにおること、悪く思わんといてくださいね」と舞に同情の視線を向ける史子。彼女も彼女で、自分が貴司の一番の理解者という自信があるのだろう。ギャンブルに溺れる父親の元で育った史子は自分の孤独を貴司の短歌に重ねた。たしかに、歌に自分の居場所を求める点において貴司と史子は似ている。だからといって、全て理解し合えるわけじゃない。

 舞と貴司の関係は、「自分たちは好きなことや価値観も違う人間である」という前提で積み重ねてきたものだ。違う人間だから、どんな時も舞は貴司の、貴司は舞の気持ちにできる限り寄り添おうとしてきた。それこそ、主題歌にある〈どんな言葉が 願いが景色が 君を笑顔に幸せにするだろう〉という歌詞のように。どんなに遠く離れていたとしても、同じ空の下に自分のことを分かろうとしてくれる人がいる。その事実が貴司の孤独を“沈めていった”のだろう。一方で、相手を想うがゆえに、言葉選びについ慎重になって自分の気持ちを押し込めてしまいがちな二人。今こそ、どうか思いを伝えることの重要性に気づいてほしい。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:福原遥、横山裕、高橋克典、永作博美、赤楚衛二、山下美月、目黒蓮、長濱ねる、高杉真宙、山口智充、くわばたりえ、又吉直樹、吉谷彩子、鈴木浩介、高畑淳子ほか
作:桑原亮子、嶋田うれ葉、佃良太
音楽:富貴晴美
主題歌:back number 「アイラブユー」
制作統括:熊野律時、管原浩
プロデューサー:上杉忠嗣
演出:田中正、野田雄介、小谷高義、松木健祐ほか
主なロケ予定地:東大阪市、長崎県五島市、新上五島町ほか
写真提供=NHK

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