『舞いあがれ!』が繰り返し描く失敗と挫折 生きていれば何度でも立ち上がれる

『舞いあがれ!』が向き合う人生の失敗と挫折

 人に頼ることができず、誤った判断を下してしまった悠人(横山裕)。それを責めることなく、「いっぺん失敗したくらいでなんや」と泣き笑いしながら悠人の肩を抱くめぐみ(永作博美)の姿にこちらまで救われたような気持ちになった。

 失敗は悪いことじゃない。『舞いあがれ!』(NHK総合)が届けてくれるメッセージはとてもシンプルだけど、いや、だからこそどんな人の胸にも刺さる。

 本作は、ヒロインの舞(福原遥/幼少期:浅田芭路)が五島で失敗への恐怖心を克服する最初のエピソードにはじまり、年齢も性別もバラバラな、あらゆる登場人物の大小さまざまな失敗と挫折、そしてそこからの立ち上がりを描いてきた。その度に思わされるのは、人生に取り返しのつかない失敗などそう多くはないということだ。

 大事なのは、いざとなったら周りに助けを求める勇気を持つこと。物語の序盤で、舞が通う小学校で飼われていたうさぎのスミちゃんが突然死したのは、今から振り返ると重要な伏線になっていた。うさぎは草食動物ゆえに自分の病気を隠すのが上手い。それは、人の変化を敏感に感じ取る久留美(山下美月/幼少期:大野さき)がしっかり目を配っていても気づかないほどに。

 浩太(高橋克典)が自分の体調よりも仕事を優先し、急死した時点で回収されたかのように思われたスミちゃんの伏線はまだ残っていた。息子である悠人も26億円もの損失、つまりは自分にとって都合の悪い事実を覆い隠すためにインサイダー取引という不正に走ってしまったのだ。何かと折り合いの悪い親子ではあったが、追い詰められた時の反応がよく似ている。変に我慢強くて、その“痛み”を一人で抱えてしまう。

 悠人だって一歩遅ければ、低体温症で命さえ失ってしまうかもしれなかったが、佳晴(松尾諭)が見つけてくれた。その佳晴もまた、かつては“ドーベルマン望月”として活躍した元ラグビーの名選手だが、けがで失業。なかなか定職に就けず、妻は出て行ってしまった。そんな佳晴に唯一残された希望が、娘の久留美だ。頑張りたいのに頑張れない、不甲斐ない自分に押し潰されそうな時もあっただろうが、「お父ちゃん」と呼び掛けてくれる久留美がいたから生きてこられた。

 だからこそ、自分のせいで久留美が好きな人と結婚できないなんて佳晴には耐えられなかったのだろう。定職に就こうとするが、それを久留美が阻止する。頼りなかった父親が娘のために変わる、そういう分かりやすい立ち直りをこのドラマは描かない。居酒屋のアルバイトで1年にたった5万しか貯金できなくても、そのために佳晴がどんなに頑張ったかを久留美は知っている。久留美にとって大好きなお父ちゃんに、久留美の幸せのために無理をさせないのが本作だ。

 そこには、“生きてさえいれば”という思いが込められているように思う。無理が祟れば、心も身体も疲弊する。最悪、浩太のように急病で命を落としかねない。自分に合わない仕事に心を蝕まれていた貴司(赤楚衛二)はギリギリで逃げ出すことができたものの、現実社会では同じ状況に置かれた人が自ら命を絶つ場合もある。そうなった時、周りにいる人たちは「どうして気づいてあげられなかったのだろう」と後悔するものだ。

 取り返しのつかないケースを避けるためには、まずは無理をしないこと。それでも、自分に何かあった時はどんな形でも周りに助けを求めること、その助けに気づけるように周りも普段から気を配っておくことが必要だと本作は教えてくれる。

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