卵を見る目が変わる? 実写アニメ『ぐでたま』のシニカルでちょっとビターな物語
実写空間に置くことで、ぐでたまのコンセプトが明確に
Netflixの『ぐでたま』も、そんな異質なものが混在した独特の空間を上手く生かした物語になっている。
『ぐでたま』は、すし屋で孵化したしっかり者であるひよこのしゃきぴよと、いつもやる気のない生卵のぐでたまが、すし屋を飛び出し、自分たちを生んだ母親を探す冒険に出るという物語だ。道中、色々な卵のキャラクターと出会い、人間とも関わりながら、養鶏場を目指して大冒険を繰り広げる。
ぐでたまたちは3DCGで作成されており、黄身のテカリ具合や白身の透明感のリアリティなどがよく表現されている。割りたてのつややかな生卵の感じが良く出ており、特に尻の丸みとテカリ具合が良くてとても美味しそうだ。
ストーリーがアドベンチャーなだけあって、道中色々な人と出会うのだが、そこでぐでたまがアニメーションキャラクターである異質性が発揮される。どうも、ぐでたまが見える人間と見えない人間がいるらしいということが、話を追いかけていくとわかってくるのだ。
どんな人間には見えるのかというと、ぐでたまのようにだらけている人には見えて、頑張りすぎている人には見えないらしい。謎の動く卵を追いかけるテレビ番組のディレクターにはぐでたまの姿は見えないが、やる気のないADには見えるなど、この異質な存在は現実とは違う法則で生きていて、特別な条件を満たすことで見えるようになるという形になっている。
やる気のない人には見えるというのが、ぐでたまというキャラクターコンセプトも相まって現代人には癒しのメッセージとして機能するだろう。頑張りすぎは良くない、少しくらい肩の力を抜いて生きてもいいかなと思わせる魅力がぐでたまにはあるのだが、本作の舞台を実写空間にして、人間からの見え方に一工夫することによって、キャラクターの持つコンセプトがより明確になっている。
「ぐでたま」の生みの親、デザイナーのAmy氏は「せっかく能力があるのに力の抜けた姿が現代人っぽくて今の社会と重なるな、とも思いました」と自ら生んだキャラクターについて説明している(※)。
今作では、ぐでたまたちが社会に生きる人間たちと接することで、社会との重なりがより明確になる。さらには卵たちの社会もそれなりに厳しく、腐ってぐれてしまった「グレたま」や卵の裏社会を牛耳るオムレツなどが登場する。社会のメタファーとしての機能は、実写空間に置かれたことで一層強くなっており、元々キャラクターたちが有していた社会に対するシニカルな視線もアニメやイラストよりも強調されている。
ぐでたまというアニメーションキャラクターの生きる世界が、自分の住んでいる世界と地続きになっているような、そういう混淆した感触が本作にはあり、それがキャラクターの持つ社会的メッセージを一層強調する結果になったと言える。
本作を観るとなんとなく、自分の周りにもぐでたまたちがいるんじゃないかという気がしてくるのだ。少なくとも、卵を見る目は変わるだろう。公式設定で、ぐでたまの誕生日は「毎日」となっている。作中でも日本人の卵の消費量は1人あたり年間338個で世界2位という情報が提示されるが、ほぼ毎日私たちは卵を食べているので、ぐでたまは毎日生まれては食べられているのだ。頑張りすぎず、ぐだぐだすれば、いつでもぐでたまに会えるかもしれないという気分にさせてくる作品だ。
参考
※ https://ddnavi.com/news/230266/a/
■配信情報
Netflixシリーズ『ぐでたま 〜母をたずねてどんくらい〜』(全10話)
Netflixにて世界配信中
声の出演:武内駿輔、福島星蘭、霜降り明星 せいや、霜降り明星 粗品
出演:中尾明慶、モトーラ世理奈、皆川猿時
原作:サンリオ
監督:榊原幹典
シリーズ構成:加藤陽一
音楽:遠藤浩二
制作プロダクション:OLM
制作協力:レスパスフィルム
主題歌:原由子「ぐでたま行進曲」(TAISHITA/Victor Entertainment)
Netflix作品ページ:www.netflix.com/ぐでたま母をたずねてどんくらい
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