放送権が配信へ移行する流れが加速? GG賞、SAG賞、アカデミー賞にみる賞レースの未来
1位:アカデミー賞(オスカー)、2位:全米映画俳優協会賞(SAG賞)、同率2位:全米監督協会賞(DGA賞)、4位:全米製作者組合賞(PGA賞)、5位:ゴールデングローブ賞、6位:インディペンデント・スピリット賞、7位:英国アカデミー賞(BAFTA)……これはLAタイムズによる「映画賞パワーランキング」の記事(※1)で、業界内外の影響力から歴史と問題点、テレビ放送されている場合は視聴率も含め1位から15位までをランク付けしたリストだ。この中で、いくつの賞をご存じだろうか。一般的に名が通っているのはオスカーとゴールデングローブ賞、映画ファンの間ではインディペンデント・スピリット賞やBAFTAは知られているかもしれない。
パンデミックに突入した2020年以前から、映画だけでなく音楽のグラミー賞、テレビ番組のエミー賞も含めて賞レース番組の視聴率低下が顕著になっていた。アカデミー賞は打開策として、歌曲賞候補者のパフォーマンスを増やし、セレブリティではない裏方を対象とした技術部門の発表・授賞を放送時間外に行うなどの愚策が都度非難されてきた。オスカーの次に高い視聴率を誇っていたゴールデングローブ賞は、主催のハリウッド外国人記者協会の排除的体質と非営利団体の運営方針が問題視され、NBCは2021年の放送を取りやめた。上記のランキングの中で2023年にテレビ放送が行われるのは、アカデミー賞(ABCほか約200カ国)、ゴールデングローブ賞(NBCほか約145カ国)、BAFTA(BBCほか海外放送もあり)、放送映画批評家協会賞(CCA、ケーブル局The CW)の4つのみ。そのほかは公式サイトやSNSなどで受賞結果やスピーチのクリップをシェアしている。実は、パワーランキングで第2位につけているSAG賞の放送権を持っていたワーナー・ディスカバリー傘下のTNTは、1998年から2022年まで放送していた歴史を翻し、昨年5月にSAG賞に対して契約解除を告げていた。SAG賞は、全米映画俳優協会(SAG-AFTRA)に所属し投票権を持つ俳優約12万人が決める賞で、アカデミー賞投票者の多くが俳優部門に属することからも、前哨戦として重要視されていた。いち視聴者としても、全ての賞が演技にかかる賞で、俳優たちが仲間の名演に賞賛を贈る慈愛に満ちた雰囲気を毎年楽しんでいた。
そして、1月10日のゴールデングローブ賞授賞式直後、SAG賞ノミネーション発表直前にNetflixが発表したニュースは、映画賞の未来を形作る大きな第一歩となった。
NetflixとSAG賞は、2024年より複数年の世界配信契約を締結した。北米時間2月26日に行われる第29回SAG賞は、NetflixのYouTubeチャンネルでライブ配信される。昨年度の視聴率(注:アメリカの視聴率は視聴人数で計測される)は180万人。昨年のアカデミー賞が1億6600万人、ゴールデングローブ賞の前回(2021年)が6900万人、1月10日に行われた第80回が6300万人、放送映画批評家協会賞は昨年120万人、1月15日に行われた第28回が90万人という壊滅的な数字だった。この成績を見ると、番組コンテンツとしての優先順位が低くなるのは致し方ない。放送権を持っていたTNTはワーナー・ディスカバリー傘下で、現在世界ブランドにすべく育成中のグローバルストリーミングサービスで世界配信するという考えには至らず、Netflixに目玉番組を譲ったのだろうか。たとえ視聴率で苦戦することがわかっていてもNetflixがSAG賞の放送権を獲得したのは、昨年末より導入した広告プランとの兼ね合い、そして映画やドラマを作る上で欠かせない映画俳優組合との良好な関係構築があるのではないかという論調も見られる。
同じような動きは音楽賞でも起きていて、アカデミー・オブ・カントリー・ミュージック賞(ACM賞)は、過去にABC、NBC、CBSとネットワーク局を流浪してきたが、2022年は放送権の更新がなされず、Prime Videoで配信される初の賞レース番組となった。SAG賞はACM賞に続く2つ目のストリーミング賞レースで、今年のゴールデングローブ賞は、NBCでの生中継のほかに系列ストリーミングサービスのPeacockでライブ配信、2022年度のSAG賞はケーブル局のTNTでの放送だけでなく、翌日からHBO Maxで配信されていたことからも、今後もこの流れは続くことだろう。