『大奥』冨永愛に最大限の賛辞を! 創作と事実が自然と混ざり合う心地よさ

 御錠口の合図で、慎ましくも精悍な掻取に身を包んだ女将軍・徳川吉宗(冨永愛)が現れる。そこは、「我こそが上様の夜伽相手に」と華美に着飾った美男子たちがずらりと並ぶ御鈴廊下。ひときわ目を引くのは吉宗同様に黒一色、しかし背中に流し入れた流水紋が映える裃姿の御中臈・水野祐之進(中島裕翔)だ。

 1月10日、NHKドラマ10『大奥』が放送開始に。初回の放送から、豪華絢爛な舞台装置と衣装、そして卓越した審美眼によるキャスティングで、原作の世界観を見事に映像で立ち上がらせた。

 原作は、3代将軍・徳川家光の時代から幕末・大政奉還にいたるまで、男女の立場が逆転した江戸パラレルワールドを描いたよしながふみの同名漫画。16年以上連載が続き、2021年2月刊行の最終19巻をもって完結した。約10年前にいくつかのエピソードが映像化されたが、ラストまでドラマで描かれるのは今回が初。奇病の蔓延により一変した世界の物語を、コロナ禍を経た今の我々に届ける。

 若い男子のみ感染する赤面疱瘡が日本中に広がり、男性の人口は女性の1/4にまで激減。家光以降の将軍職を含む、あらゆる家業が女から女へと受け継がれるようになった。こうした簡素な説明の後、物語はいきなり8代将軍・吉宗の時代へ。質素倹約を好む吉宗と貧しい旗本の子息である水野の視点から、大奥という場所の異質さを描き、読者を作品世界へ一気に引き込む、よしながの手腕が光る構成だ。

 今回のドラマも原作通り、「8代・徳川吉宗×水野祐之進編」をプロローグとして第1話に据えた。1巻をまるごと映像化するにあたり、かなりスピーディな展開ではあるが、さすがは数々の原作ものをヒットに導いてきた脚本家・森下佳子。原作を読んでいる人も読んでいない人も違和感なく楽しめるよう、大奥でのしきたりや主要人物の人となりが分かるエピソードをうまく抜き出し、鮮やかにまとめ上げた。

 冒頭では、水野と幼なじみである信(白石聖)の、もどかしさ溢れるピュアなやりとりが繰り広げられる。水野役の中島裕翔は昨年、ドラマ『純愛ディソナンス』(フジテレビ系)で女生徒と恋に落ちる教師という役柄で男の色香を放ち、子役時代から自身を知る視聴者たちを驚かせた。しかし、今回演じる水野は子どもと大人の間を行き来するような役柄である。

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