ジャン=リュック・ゴダール、アイヴァン・ライトマンら偉大な映画監督たちを偲んで

 毎年多くの映画人がこの世を去る。それはどうしたって避けられないことである。アカデミー賞の授賞式に必ず設けられている追悼のメモリアルコーナーを見ていると、近年は一時代を築いたレジェンドたちの名前が目立つようになった。2022年もまた、あまりにも多くの偉大な映画監督たちが亡くなった。ここで全員を紹介することはできないが、そのなかから何人かをピックアップさせていただき、彼らが遺した永遠に残り続ける作品と共に触れていきたい。

ピーター・ボグダノヴィッチ

ピーター・ボグダノヴィッチ(写真:REX/アフロ)

 まずは1月6日にこの世を去ったピーター・ボグダノヴィッチ監督。代表作の『ラスト・ショー』と『ペーパー・ムーン』は、紛れもなくアメリカ映画史に残る傑作である。テキサスの田舎町を舞台にした若者たちの青春群像が描かれる前者と、ライアン・オニール&テイタム・オニール親子の痛快なロードムービーで貫徹する後者。典型的なアメリカ娯楽映画のスタイルを貫きながら、随所にシネフィリーな部分が散りばめられているのがボグダノヴィッチ監督の作品の魅力である。

 そういった意味ではオニール親子と再タッグを組んだ『ニッケルオデオン』は格別の作品だ。映画黎明期を舞台に映画制作のドタバタを描き、役者同士の掛け合いのリズムの良さにクライマックスでのライアン・オニールの表情。またボグダノヴィッチとオニールといえば、『おかしなおかしな大追跡』という大傑作も忘れてはなるまい。コメディを十八番とした典型的な娯楽監督というのはどうしても過小評価されがちだが、アメリカ映画にはボグダノヴィッチのような監督が必要だ。

アイヴァン・ライトマン

(左端)アイヴァン・ライトマン(写真:REX/アフロ)

 同じように娯楽映画を得意とした監督では、アイヴァン・ライトマン監督が2月12日に亡くなった。ちょうど息子のジェイソン・ライトマンへ引き継がれた『ゴーストバスターズ』の新作『ゴーストバスターズ/アフターライフ』が日本公開されたばかりのタイミングだった。アイヴァンの作品といえば、やはり『ゴーストバスターズ』シリーズや、ケヴィン・クラインが大統領の影武者になる『デーヴ』が人気どころであろう。

 それらもすばらしい作品ではあるが、娯楽映画としてのパワーでいえばアーノルド・シュワルツェネッガーとタッグを組んだ3作品だろう。シュワルツェネッガーとダニー・デヴィートが双子を演じた『ツインズ』、幼稚園に潜入捜査する『キンダガートン・コップ』、そして妊娠した男性を描く『ジュニア』。テレビ放送などでも気楽に観ることができ、それでいて良質なクオリティを保つ。アイヴァンの娯楽映画職人としての技量が、ジェイソンにも継承されていることが『ゴーストバスターズ/アフターライフ』で証明されたことはとても喜ばしいことだ。

ジャン=リュック・ゴダール

ジャン=リュック・ゴダール(写真:REX/アフロ)

 9月13日に安楽死という選択をもって91年の生涯にFINマークを掲げたジャン=リュック・ゴダール監督。何十年も前からその存在そのものが“映画史”であり、よほど嫌っている人でない限り、なんらかのかたちで影響を受けずにはいられないゴダールの映画について語るとなれば、それはいくらでも時間を費やすことができる。けれどもそんなことをするよりも、彼の作品を一本でも多く観た方があまりにも有意義なことだ。

 なので時代ごとに、ゴダールの映画で筆者個人が好きな作品を羅列するだけに留めたい。初期の短編では『男の子の名前はみんなパトリックっていうの』。とてもフランス映画らしい愛すべき一本だ。もちろん長編デビュー作の『勝手にしやがれ』は欠かせない。1960年代の商業作品では『女と男のいる舗道』、『はなればなれに』、そして『恋人のいる時間』。ジガヴェルトフ集団の時代なら『ウラジミールとローザ』。商業復帰後は『ゴダールの探偵』と『右側に気をつけろ』。21世紀に入ってからは『アワーミュージック』が一枚抜けている。それと短編で『フレディ・ビュアシュへの手紙』と『ソフト&ハード』。もっとあるけれど、きりがないのでここまでにしておく。

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