2022年の年間ベスト企画

長内那由多の「2022年 年間ベスト海外ドラマTOP10」 スピンオフが憂う社会の分断と対立

『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』Netflixにて配信中

 そんな中、個々人の関係性に目を凝らした人間ドラマが心に響いた。自閉症スペクトラムのヒロインを中心に個性豊かな人々が集う『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』や、互いを“シェフ”と呼び合うたった1つの規範を頼りに下町の料理人たちが結束する『The Bear(原題)』(邦題は字数を食うので書きたくない)など、人間関係のトライ&エラーを繰り返しながら、束の間の食卓を囲む彼らの姿に今の世界が必要とする共存を見た。『The Bear』をはじめ今年は30分ドラマが豊作で、Netflixの『Mo/モー』やHBO(日本ではU-NEXT配信)の『サムバディ・サムウェア』、驚異的な映像が連発する『バリー』シーズン3など、多様な進化を続けているのがこのジャンルである。

 さらに、4年のブランクを経て1年に2シーズンがリリースされ完結した『アトランタ』の知性に圧倒された。シーズン3では、それまで物語の舞台となってきたアトランタを飛び出してヨーロッパを横断し、差別構造を解き明かすスケールの大きい批評性を見せた。『セヴェランス』は、“ブラック企業”なんて言葉が流行語に選ばれる本邦では見慣れた光景かも知れないが、ありとあらゆることを考えずにはいられなくなる奇想に前のめりになった。

 パンデミックによって崩壊した世界を舞台に1冊の本が結ぶ数奇な運命を描いた『ステーション・イレブン』を最後に入れておこう。もちろん、僕たちの世界はまだここにある。物語は困難な現在を生き抜くための縁(よすが)だ。このリストが僅かながらでも手引になれば幸いである。

■配信情報
『ベター・コール・ソウル』シーズン6
Netflixにて配信中
©︎Joe Pugliese/AMC/Sony Pictures Television

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