山本耕史、三浦義村として“裏切り”の心苦しさはなかった? 『鎌倉殿の13人』撮影秘話
“裏切る”義村を演じて心苦しさは?
――では、義村がここはもしかしたら変わっていたかもというポイントになった出来事やシーンはありましたか?
山本:そういうポイントだらけなんですよね。どっちにつくかとか、一応それなりに悩んだり、吟味はするんです。今ここで北条に反旗を翻すと絶対にこうなるだろうということも分かっていて。想定外だったのは、第40回で起請文を飲まされたところですね。義村は瞬時に和田(義盛)(横田栄司)につくと腹を括ったんですよ。でも、義盛から「どうせ裏切るならギリギリで裏切らないでほしいんだよな」と言われ、そういうことならと裏切ることに決めた。自分で選ぶ時もあるんだけど、和田の時だけはラッキーと思ったのかもしれないですよね。意外な嬉しい誤算というか。でも、あのまま和田について戦っていたら、どこかで和田とか巴御前(秋元才加)がいなくなった瞬間に、ギリギリで寝返っていたんじゃないかなとも思いますよね。
――次々に裏切っていく義村を演じていて、山本さんの中で心苦しさはなかったんでしょうか?
山本:全然なかったですね(笑)。むしろどっちにつくんだろう、つこうかなとワクワクしましたよね。出てきた杭は義時であろうが打つという。そこに迷いがないから、むしろ気持ちいいですよね。その絶妙なバランスで傾いて落ちるか、そのまま重心を保つかという。どこまでこの橋を渡りきるかみたいな勘と判断力の鋭さが、台本を見ていても爽快でした。畠山も比企も梶原も全員いなくなったのに、三浦だけは生き残っていると。そういうところが、義村らしい生き方ですよね。ほかにも、第41回で義時に「俺を信じるか信じないかはそっちの勝手だ。俺を信じてお前は死ぬかもしれないし、信じて助かるかもしれない。だが、俺を信じなければ、お前は間違いなく死ぬ」と言うシーンも好きです。「0か100」じゃなく、「0か50」なんだと。義村らしいですよね。俺を信じれば生き残るじゃなく、俺を信じたらお前は死ぬかもしれないけど生き残るかもしれない。つまりは、俺が本当を言っているのか嘘を言っているのかはお前が判断しろ、というところだから、あれは面白いセリフだったなと思って。例えば、こっちは全部毒、こっちは半分毒が入っているというパンを渡しているようなものですからね。
――では演じていて、良心が痛んだシーンも特になかった?
山本:これは私情が入っているのか分からないですけど、公暁(寛一郎)暗殺かな。大先輩であり、大好きな(佐藤)浩市さんのせがれ(寛一郎)でもあって、浩市さんにも「よろしくな」という声をかけていただいたりして。僕は寛一郎という一人の俳優としていいなと思ったし。かなり残酷で、それでいて震え上がるようなシーンなんだけど、ちょっと美しいというか。撮影でもテクニックをいっぱい使っています。刃を首に当てて、そのままスッと入れるところを、CGではなく、本当にそれを僕の特技であるマジックのテクニックでやったんです。刺す前の小刀はキラッと光っているけど、倒れた後の小刀に血が付いているのは、ワンカットで撮っているんです。寛一郎が綺麗な眼差しと未来を持って演じていたから、彼が憂いというか、悲しみみたいなものを纏っていましたよね。そこに真顔でスッと小刀を刺すところが、ある意味、義村っぽいんだけど、そこは「うわ、かわいそう……」と思ったかな。
――最終回の台本を読んだ時の感想はいかがでしたか?
山本:義村は貪欲で、強かな描かれ方がされてきましたが、僕が印象的だったのは1番最後に義時と会話するシーンで。この1年半撮影してきた流れの中で、義村も義時も両方とも腑に落ちたと思うんですよね。最後の最後に、一瞬の覚悟を持った会話で通じ合ったような、最初の頃の2人に戻ったような、そんな素敵なシーンだなと思いました。
――撮影秘話があれば教えてください。
山本:三谷さんらしいテイストもあって。読んだときに難易度的にはすごく高いと思ったんですよ。しっとりした本気の感じだと三谷さんのテイストが出ないし、かといってコメディに寄せすぎると、それはそれでもったいないシーンであって。その2つを両立させるにはどのくらいの調子がいいのか、その辺はこのくらいのトーンでセリフを言ってとか、あのシーンの時だけは考えたかな。普段は、割とセリフを入れてから、言ってみて、周りとの感じで決まっていくんですけど、あのシーンに限っては、自分で自分を演出していったというか。僕の中で組み立てたシーンでした。
――山本さんはそのシーンをどのように受け取ったのでしょうか?
山本:僕が受け取ったイメージは、淡々と自分の思うことを言っていく、沸々としているけど「静」のシーンだったんですよ。だけど、もうちょっと振り幅が持てないかなと思って、台本には書かれてなかったんですけど、「動」というか、動きを入れたんですよね。そうすることによって、もっと引き立つかなと思って。淡々とやると、意外と普通に成立しちゃうシーンなんです。面白いけど、ふっと通り過ぎちゃうぐらいのやり方も、実はできたんですけど、割と抑揚をつけてドラマチックにしてみました。だから、より振り幅ができたんじゃないかなとは思っています。
■放送情報
『鎌倉殿の13人』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送
BSプレミアム、BS4Kにて、毎週日曜18:00~放送
主演:小栗旬
脚本:三谷幸喜
制作統括:清水拓哉、尾崎裕和
演出:吉田照幸、末永創、保坂慶太、安藤大佑
プロデューサー:長谷知記、大越大士、吉岡和彦、川口俊介
写真提供=NHK