『作りたい女と食べたい女』が切り取る日常の違和感 様々な“当たり前”からの解放
そんな日頃なんだかモヤモヤしてしまう瞬間やシチュエーションを、本作は見逃さず切り取ってくれる。唐揚げ定食のご飯の量を店主に確認もなしに少なめで出され「普通についでください」とお願いする春日さん。また、彼女がビールに苦手意識を持つきっかけとして描かれたトラウマ。一人で入った飲食店でいきなり中年男性客よりオーダーの仕方にダメ出しをされ、ウンチクというより勝手な持論を展開された回想シーンが差し込まれる。
“無料の接待”――この言葉にやけに腑に落ちた思いがした女性は多いのではないだろうか。近年よく耳にするのはスポーツジムでトレーニングをしていたら、勝手に男性利用者が頼んでもいないのに自身のトレーニング自慢を繰り広げてきたり、何ならフォーム指導をしてきたというホラー話だ。いずれのケースも本人たちに全く悪気はないどころか、何なら親切心でやっていたりするので非常にタチが悪い。望むと望まざるとにかかわらず“自分個人”よりも“女性”としての一面を勝手に切り取られフォーカスされ、期待される役割を勝手に担わされることがある。本作を観ていると、あの時あの場所で飲み込んだかつての自分の声が、言葉が湧き出てきて、消化不良のまま奥底に沈み込ませてしまっていたモヤモヤや違和感について改めて考えさせられる。
その上で本作が秀逸なのは、女性同士もまた様々でそれぞれに違うこともきちんと描かれる。生理やPMSの症状などについて「同じ女性でもみんな違いますから」と当たり前のように口にしてくれる春日さんは本当に信頼できる。
違和感を極力飲み下してしまわずに言葉にしようとする春日さんは、きっと意識的にそうしているのだろうし、そうせざるを得なかった背景があるのだろう。様々な“当たり前”から解放され、溶き解されていく時間を2人と一緒に過ごしたい。
■放送情報
夜ドラ『作りたい女と食べたい女』
NHK総合にて、毎週月曜〜木曜22:45~23:00 (全10話)
※全エピソードをNHKプラスでも配信
出演:比嘉愛未、西野恵未、森田望智、中野周平(蛙亭)、野添義弘ほか
原作:ゆざきさかおみ
脚本:山田由梨
音楽:伊藤ゴロー
制作統括:坂部康二(NHKエンタープライズ)、大塚安希(MMJ)、勝田夏子(NHK)
制作:NHKエンタープライズ
制作・著作:NHK、MMJ
写真提供=NHK