『舞いあがれ!』舞は“キャラ変”ではない? 自分の知らない世界と向き合うための変化

『舞いあがれ!』舞は“キャラ変”ではない?

 中学から高校へ、高校から大学へ、大学から職場へ、会社から転職して、結婚して伴侶の実家へ、子供のママ友の集まりへ、関東から関西へ……と環境が変わったことに戸惑った経験はないだろうか。速いにしろ遅いにしろ、これまでと物事が進む時間間隔が違っていたり、会話のペースやノリや話題が違っていたりして、ついていけない、あるいは浮いてしまう経験は誰しもあるのではないか。筆者はかなり動作や喋り方が鈍いほうなのだが、ふと環境が変わったとき、実はこれまで家族や友人が自分のペースに合わせてくれていたことを痛感したことがある。話は少しずれるが、同じ会社の人たちの電話の出方や喋り方が似ていると感じるようなこともある。人と話すときはミラーリング(相手の動作を真似する)が良いとも言う。

 マッチするということは運命的なこともあるけれど、概ね互いの努力によって成り立っていくものなのである。

 そういうわけで、舞が厳しい社会に出る一歩手前の航空学校のムードが違い、これまでの舞の振る舞いが容易には通用しないことが、脚本家が代わったことで表現できたのではないかという気がしている。

 熊野制作統括は筆者の取材で「航空学校編はいわゆる学園もの的な要素が濃くなり、パイロットという明確な目標があるワンチームと教官という世界で芝居が進んでいくので必然的にテンポやタッチが変わりました」と語っていて、あくまでも専門性が高く取材や確認もいつも以上に多いことから分業したようだが、それによって環境の激変にもつながったのではないだろうか。

 おそらく、貴司(赤楚衛二)は高校を出て就職し「干からびた犬」の心境を味わったのは、このこれまで自分が生きてきた世界とまるで違う世界に戸惑い慣れることができなくて去る選択をした。でも世界に自分を合わせなくても自分らしくいていいのだと五島の風景や祥子(高畑淳子)との触れ合いで知った。

 悠人(横山裕)のいる世界も、なんだか別のドラマのようなムードが漂っている(単に照明が暗いだけかもしれないが)。

 自分と違うテンポや考え方が中心の世界と向き合ったとき、自分のペースを大事にしながらどうやったら異なる物事にもうまく調子を合わせていけるか、それを舞は学んでいくフェーズに入ったのだろう。

 とはいえ「干からびた犬」や「ウサギ殺し」みたいな個性的なフレーズを書ける桑原亮子の作家性がしばしお休みなのは惜しくはある。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:福原遥、横山裕、高橋克典、永作博美、赤楚衛二、山下美月、目黒蓮、長濱ねる、高杉真宙、山口智充、くわばたりえ、又吉直樹、吉谷彩子、鈴木浩介、高畑淳子ほか
作:桑原亮子、嶋田うれ葉、佃良太
音楽:富貴晴美
主題歌:back number 「アイラブユー」
制作統括:熊野律時、管原浩
プロデューサー:上杉忠嗣
演出:田中正、野田雄介、小谷高義、松木健祐ほか
主なロケ予定地:東大阪市、長崎県五島市、新上五島町ほか
写真提供=NHK

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