『舞いあがれ!』赤楚衛二が紡ぐ言葉が桑原亮子脚本の肝に 舞と貴司の対比を考える

『舞いあがれ!』舞と貴司の対比を考える

 舞が「空を飛ぶことができる」人なら、貴司は「その空を見つめる」人だ。第3週で、久留美と舞が模型飛行機を空に飛ばそうとソワソワしている時、彼は「空、きれいやなあ」とただ見つめていた。人力飛行機で大空を飛んで、その魅力に取りつかれた舞は、第28話で果てしなく広い琵琶湖の夕焼け空を見る。一方の貴司は、第33話において五島列島の大瀬埼灯台の夕焼け空を見に行く。そしてその美しさを、3日かけて言語化することで、自分自身を取り戻していく。

 貴司と幼い頃の舞は似ている。「舞は人ん気持ちば考えられる子たい、じゃばってん自分の気持ちも大事にせんば」という、第9話の舞に向けた祥子の言葉は、そのまま、「人に合わせて自分のほんまの気持ち、心の奥にしまい込んで、自分が何やりたいんか、何好きなんか、わからんようになった」今の貴司にも届けたい言葉である。奇しくも同じ「五島列島の絵葉書」が呼び水となって、幼い舞は五島列島に行くことになり、祥子と出会い、原因不明の発熱を乗り越え、「変わる」ことができた。だから彼も、自分も変われるかと思い、舞からもらった「五島列島の絵葉書」を頼りに、島を訪ねた。でも、そこで祥子からもらったのは「自分の言葉知っちょる人間が一番強かけん。変わりもんは変わりもんで堂々と生きたらよか」という、彼自身を肯定する言葉だった。「変わらなくてもいい」という答えだった。

「失敗ばすっとは悪かことじゃなか」

 舞は一見順風満帆のようにも見えるが、本当は何度も失敗と挑戦を繰り返している。浩太もそうだ。試行錯誤を繰り返した末に会社をここまで大きくしてきた。貴司もまた、これは一つの失敗と新たな挑戦である。労働を通して生まれた苦しみを「本が読みたい、詩を書きたい」という渇望に変えることで、八木の言う創作の理想の在り方を体現しようとしたがうまくいかなかった。でも、もがかなければ、彼は、新しい一歩を踏み出せなかったことだろう。そして、今、彼は彼自身が「デラシネ(根無し草。自分の祖国や安住の地と縁を切っていることを意味する)」となる道を選んで、愛に溢れた両親(山口智充、くわばたりえ)と東大阪に別れを告げた。彼がこれから生きていく風景は「寂しくてきれい」なのだろうか、それともまた少し違った風景なのだろうか。旅先からの「絵葉書」が届くのを待とう。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』
総合:午前8:00~8:15、(再放送)12:45~13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30~7:45、(再放送)11:00 ~11:15
出演:福原遥、横山裕、高橋克典、永作博美、赤楚衛二、山下美月、目黒蓮、長濱ねる、高杉真宙、山口智充、くわばたりえ、又吉直樹、吉谷彩子、鈴木浩介、高畑淳子ほか
作:桑原亮子、嶋田うれ葉、佃良太
音楽:富貴晴美
主題歌:back number 「アイラブユー」
制作統括:熊野律時、管原浩
プロデューサー:上杉忠嗣
演出:田中正、野田雄介、小谷高義、松木健祐ほか
主なロケ予定地:東大阪市、長崎県五島市、新上五島町ほか
写真提供=NHK

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