安田顕演じる植野先生の慈愛に満ちた熱 『PICU』で新たな形の“ヤスケン劇場”が開幕

 アスリートが、過去最高の成績を残すことを「キャリアハイ」と言うが、俳優界にも“それ”があるとするならば、安田顕は2022年もキャリアハイを更新したのではないだろうか。

 吉沢亮が初の月9主演を務めるドラマ『PICU 小児集中治療室』(フジテレビ系)に出演中の安田。本作は、北海道「丘珠病院」のPICU=小児専門の集中治療室を舞台に、若手医師の志子田武四郎(吉沢亮)が、ときには傷つきながら、ときには自分を奮い立たせながら成長していく姿を描いている。そんな駆け出しの武四郎を“しこちゃん先生”と呼び、温かく見守っているのが、PICU科長の植野元(安田顕)である。彼は、アメリカでPICU医の資格を取得し、帰国後、日本各地でPICUの整備を推し進めてきた小児集中治療のパイオニアだ。

 武四郎は、PICUに着任してから徐々に成長しているが、植野が授ける言葉やサポートが大きく作用しているように思う。着任早々、5歳の子どもの死に直面した武四郎が、搬送ルートや生存ルートはなかったのか、淡々と話し合いをする医師たちに違和感を覚え「おかしくないですか? 人が1人死んじゃったんですよ?」と涙を流して訴えたことがあった。

 植野は頭ごなしに彼の意見を否定するのではなく「亡くなったから話すんです。人間が1人死んでしまったから、まだみんなの記憶が新しいうちに、正しい情報が集められる今のうちに考えるんです」と教えた。“次に同じことが起こったとき、確実に助けられるように”。植野の言葉にはそんな想いが込められていた。

 また、綿貫りさ(木村文乃)に対しては「いろんなことを抱えて働いてもいいと思う。でも一人で抱えないでね」と伝えたり、ドクタージェットは常に北海道にあるべきだとの話になった際には「住んでいる場所によって、命が助からない可能性があるというのは絶対におかしい。医療は公平に与えられなければなりませんから」と述べたりと、心を救う言葉を周囲に与え続けている。

 ただ、いくら彼が冷静沈着だからといって、感情を押し殺しているわけではない。前述の武四郎への助言には続きがある。ドクタージェットがあれば、5歳の子どもは助かった。亡くなった子を悼みつつ「どうしたらよかったのか。反省して、反省して、考えて、考えて。一緒に考えましょう。君の記憶が新しいうちに」と一筋の涙を流したのだ。

 寛大な植野先生を演じられるのは安田しかいないーー。そう思うほど、安田の演技と植野の人柄がリンクしているし、作品を観ていると胸がじんわりと温かくなる。彼の優しい言葉を聞くだけで、涙腺が緩んでくるのは私だけじゃないはずだ。

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