『舞いあがれ!』には福原遥らの“言葉にならない熱”がある 詩のようだった“説明セリフ”
物語の進行上の理屈としては、舞は、みんなの想いを背負っていくのだとわかる。一緒に過ごしている人たち、志半ばで倒れていった人たち、すべての想いを背負って……。そのために、由良は過去の女性パイロットの話を舞にし、空山(新名基浩)は自分がサークルにいた7年間の部員たちの功績を語る。これらを舞がすべて背負うわけである。舞の極私的な物語と思って見ると、舞の活躍のために物語が早く動きすぎていると感じてしまうこともあるが、舞はあくまで、みんなの想いを背負って行動することの尊さの象徴であると考えれば、展開の早さも気にならなくなる。もう少しベタな表現でそれを強調することもできるだろうが、そうしない控えめな感じも味わいはある。
なにより舞が、「私がんばる!」みたいなガツガツと明るくなく、由良の代わりにパイロットになることを決意するときも、どこか自信なさげな表情であるところが視聴者の気持ちを逆なでしないで済んでいる気がする。いや、なかには、逆に、そういうのが好きじゃないと思う人もいるかもしれないが……。
テーマやコンセプトが全面に出過ぎるのも考えものなのだが、設計担当の刈谷(高杉真宙)が語る「1987年アメリカでライトイーグルが記録した15.44キロメートル、女性パイロットの世界記録」というデータ、空山の語る「7つ……これまでに僕が触れた人力飛行機は7つ」からはじまる記憶、ただ事象を語っているだけなのだけれど、そこには特別な想い(魂)がこもっていて詩のようだった。
たかが説明セリフというなかれ。説明セリフの、その人しか知らない、確かな経験と実感のこもった具体性が力になることも時にはあるのだ。叙事的なことから叙情が立ち上ることもある。飛行機はまさにそうであろう。計算され尽くして整然と組み立てられた飛行機はその良さも欠点も理解して言葉を盛ることができる人は多くはない。そこは専門の領域だから。詳しいことはわからないが、堂々と端正で美しい飛行機。リブ一枚にも、ねじ一本にもそういう美しさがある。俳優たちもそれをしっかり理解しているように熱っぽく演じている。この言葉にならない熱は人を幸福にする。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』
総合:午前8:00~8:15、(再放送)12:45~13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30~7:45、(再放送)11:00 ~11:15
出演:福原遥、横山裕、高橋克典、永作博美、赤楚衛二、山下美月、目黒蓮、長濱ねる、高杉真宙、山口智充、くわばたりえ、又吉直樹、吉谷彩子、鈴木浩介、高畑淳子ほか
作:桑原亮子、嶋田うれ葉、佃良太
音楽:富貴晴美
主題歌:back number 「アイラブユー」
制作統括:熊野律時、管原浩
プロデューサー:上杉忠嗣
演出:田中正、野田雄介、小谷高義、松木健祐ほか
主なロケ予定地:東大阪市、長崎県五島市、新上五島町ほか
写真提供=NHK