『サイバーパンク:エッジランナーズ』ほど完璧なゲームのアニメ化はない!

『サイバーパンク』は最高のアニメ化

 『ウィッチャー3 ワイルドハント』で知られるCD PROJEKTREDが製作したオープンワールドRPG『サイバーパンク2077』は、「サイバーパンク」というジャンルを愛好するものにとって垂涎ものの作品であった。完璧に計算された「雑多で入り組んだ街並み」は、その圧倒的な情報密度によって歩くだけで楽しいという未知のゲーム体験を味わえる。キャラクタービルドではコンビニに行くような気軽さで肉体をクローム(機械)に換装することができる。町ゆく人々は愚かで逞しく、大抵の場合は短命だ。『サイバーパンク2077』は、サイバーパンクという世界観を舞台としたゲームとして完璧と言って差し支えない。

『サイバーパンク: エッジランナーズ』予告編 (トリガー編集版) - Netflix

 その『サイバーパンク2077』がアニメ化される。それも日本最高峰のアニメーションスタジオTRIGGERによって。正直、その話を聞いた時は期待より不安が勝った。なぜなら冷淡で退廃的な世界観の『サイバーパンク2077』とTRIGGERの相性は、いくら稀代のサイバーパンクニンジャ活劇小説『ニンジャスレイヤー』のアニメ化を手掛けていたとはいえ、あまり良いようには思えなかった。しかし、『サイバーパンク:エッジランナーズ』は近年のアニメーション作品の中でも特に記憶に刻まれた作品となった。なぜなら本作はボーイミーツガールを描いたジャパニメーションとしても、サイバーパンクを舞台にした死の物語としても、そしてゲーム原作の映像化作品としても、圧倒的に完成度の高い作品だったからだ。

 本作の物語は、デジタル的に再現された他者の死を主人公の少年・デイビッドが追体験するところから始まる。貪欲な資本主義に飲み込まれたナイトシティにおいて、他人の死は金になる娯楽でしかない。他人の記憶を疑似的に体感できるマシン「ブレインダンス」では、死すらも繰り返し消費される。その一方で、主人公の母親は金が無いというだけで無機質な死を迎える。本作ではいくらでもエモーショナルに表現できそうな肉親の死を淡々と呆気なく描いている。事務的な会話によって母親の死が知らされ、自動販売機のようにごとりとクロームに包まれた骨壺が落ちてくる。この時点で、TRIGGERとサイバーパンクの相性を疑うような日和見な考えは消えた。サイバーパンクは死の物語であり、TRIGGERはそれを完璧に描いていた。

ナイトシティを歩くデイビッド | サイバーパンク: エッジランナーズ | Netflix Japan

 母親が死に、経済的に困窮したデイビッドはやがてサイバーパンクとして生きるようになる。物語世界においてサイバーパンクとは肉体をクロームに置換し、力のみによって裏社会で成り上がろうとする傭兵の総称である。また、サイバーパンクは別名「エッジランナー」とも呼ばれている。サイバーパンクとは、文字通り崖に向かって走るような人種なのだ。そしてサイバーパンクは大抵の場合夢を見ない。15分後に流れ弾が頭蓋を貫くかもしれない。そんな世界に生きるサイバーパンクにおいて、10年も20年も先の、叶うかどうかわからない夢を見るなど稚気じみた行為でしかないのだ。

 デイビッドはその点において真のサイバーパンクである。彼は決して夢を見ることはない。サイバーパンクになる以前から彼は母親の夢を背負って歩いてきた。そんな中、デイビッドは一人のサイバーパンクの少女・ルーシーと出会う。彼女は、この刹那的な世界に身を置きながら「月へ行く」という夢を見ている。ルーシーに惹かれていくデイビッドは、やがて彼女の夢すら背負うようになる……。これほどサイバーパンクとボーイミーツガールが美しく有機的に繋がっている物語は見たことがない。無論『ブレードランナー』(1982年)当時のハリソン・フォードを“ボーイ”と規定しなければだが。ともかく本作は一種のジャパニメーションの正道を行く作品ながら、圧倒的にサイバーパンクなのだ。そして本作は、ゲーム原作の映像化作品としても類を見ない完成度を誇る。

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