『鎌倉殿の13人』源実朝の秘めた思いが切なすぎる 三谷幸喜の鮮やかな和歌の解釈

 『鎌倉殿の13人』(NHK総合)第39回「穏やかな一日」。源実朝(柿澤勇人)と千世(加藤小夏)との間に世継ぎの誕生がなく、政子(小池栄子)と実衣(宮澤エマ)はそのことを気にかける。義時(小栗旬)は御家人たちが謀反を起こさないように政の仕組みを改め、三浦義村(山本耕史)、和田義盛(横田栄司)らがその傲慢なやり方に不満を募らせていた。

 これまでの回に比べると「穏やかな一日」ではあったものの、義時が敬愛していた兄・宗時(片岡愛之助)の、坂東武者の頂に北条を立つという夢を果たすべく、政を進めていく姿には不穏な空気が漂う。頼朝(大泉洋)のように、力と恐怖で鎌倉を支配しようとする義時の目は闇に染まっている。

 立場を利用し始めた義時とは対照的な位置にいるのが、純粋で心温かな実朝だ。実朝は、仲章(生田斗真)から和歌の手ほどきを禁止され気落ちしている三善康信(小林隆)を励ましたり、御所に仕える女房のよもぎ(さとうほなみ)の立場を気遣ったりと、情味のある心遣いが印象的なのだが、自分の気持ちをうまく表現できず、抑え込むきらいがある。第39回では、そんな実朝の心の内が丁寧に描かれていくのだが、その心情はあまりにも切ないものだった。

 特に心苦しいのが泰時(坂口健太郎)に向ける眼差しだ。実朝は書きためた和歌から一首を選んで、泰時に手渡した。仲章の解釈により、その和歌は恋しい気持ちを詠んだものだと分かる。泰時は実朝の居室を訪ね、間違えて恋の歌を渡してくれたのではないかと差し出した。そのとき、実朝はやるせなく泰時を見つめる。そしてふっと微笑むと「そうであった。間違えて渡してしまったようだ」と答える。

 その前の場面で実朝は、世継ぎができないことを気に病む千世の苦悩を知り、「私には世継ぎを作ることができないのだ」「私は……どうしても……そういう気持ちになれない」と秘密にしてきた悩みを打ち明けている。千世との場面、そして泰時に手渡した和歌を通じて、実朝がこれまで誰を想い続けてきたのかが伝わってくる。

 弓の技競べのときを思い返すと、泰時を見る実朝はこれまで以上に表情豊かだ。実朝は泰時が矢を放つ前、緊張した面持ちで、けれどどこか泰時が射抜くことを期待しているようにも楽しみにしているようにも見える佇まいで泰時の背中を見つめていた。泰時が見事的を射抜くと、自分ごとのように大層喜んでいる。しかし、的を射抜いた鶴丸改め平盛綱(きづき)と泰時が喜びを分かち合うように抱き合う姿を見たとき、実朝はふいに寂しそうな面持ちになり、手にした盃を口にすることなく下ろす。

 はじめ、実朝は、自分には盛綱と泰時ほど心を開ける相手がいないという寂しさを感じているようにも見えた。だが改めて実朝の表情を見てみると、実朝の心は泰時にだけ向けられている。たとえば、「私はいてもいなくても同じなのではないか」と政への復帰に葛藤する実朝を泰時が励ましたとき、実朝はその言葉を聞いてホッとしたように微笑む。その穏やかでやわらかな微笑みは、泰時からの励ましだからこそ心にしみたのだろうと感じさせてくれる。

 また、「そうだ、太郎に渡したいものがある」と泰時に和歌を渡す挙動には、どこか意を決して、恋の歌を渡しているようにも見える。泰時に向けていたのだと思われる言動が見えたのは第39回だけではない。千世との婚姻が決まった際、泰時は「ご結婚の件、おめでとうございます」と実朝に伝える。実朝は返事をする代わりに少しだけ微笑むも、その後は浮かない面持ちのままだった。「鎌倉のため」の縁組みに重々しい表情を浮かべているのだと感じていたが、あのときも心の奥底では泰時への思いに苦しんでいたのかもしれない。

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