映画&ドラマで異例の『シャイロックの子供たち』被り 池井戸潤ブームはいつまで続くか
池井戸潤の小説は多数映像化されているが、『シャイロックの子供たち』が10月クールでドラマ化、そして2023年の2月には映画化が決まっている。しかも、ドラマ版はWOWOWの連続ドラマWで放送され、主演は井ノ原快彦。映画版は松竹配給で、主演は阿部サダヲという、全く違う座組となっている。
テレビドラマで放送されたものが後に映画化されることは多い。だが、今回は同じ原作小説のドラマ化と映画化が短い期間で行われるという異例の事態だ。
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ちなみにドラマ版は脚本の前川洋一を筆頭に、WOWOWの「連続ドラマW」で放送された『空飛ぶタイヤ』『下町ロケット』『鉄の骨』『アキラとあきら』といった池井戸潤作品をドラマ化してきたチームが手掛けている。一方、映画版は長瀬智也主演で『空飛ぶタイヤ』を映画化した本木克英が監督。どちらも実績のあるチームによる映像化なので内容面での不安はない。逆に短い期間での連続発表が、どのような相乗効果をもたらすのかに注目している。
池井戸潤は1998年に『果つる底なき』(講談社)で第44回江戸川乱歩賞を受賞し、小説家としてデビュー。銀行員出身という経験を活かしたミステリー小説を書き、次々とヒット作を生み出していた。今では、ドラマや映画の原作として欠かせない存在となった池井戸潤作品だが、当初は映像化された作品も少なく、ヒットメーカーというわけでもなかった。
『果つる底なき』は、渡辺謙主演の単発ドラマが2000年にフジテレビで作られた。しかし、当時の池井戸潤は駆け出しの作家だったため、江戸川乱歩賞受賞作の映像化という側面の方が強かった。
次に映像化されたのは短編集『銀行狐』(講談社)に収録された「ローンカウンター」。2002年にテレビ朝日の土曜ワイド劇場で『覗く女 実況中継された連続殺人!』というタイトルで放送された。
そして、初めての連続ドラマとなったのが2009年にWOWOWで放送された『空飛ぶタイヤ』だ。その後、2010年にNHKで放送された『鉄の骨』、2011年にWOWOWで『下町ロケット』が制作されるのだが、当時の池井戸潤原作のドラマ化は、特殊な業界を描いた硬派な社会派ドラマという印象で、敷居が高かった。
2007年の『ハゲタカ』(NHK総合)以降、NHKの土曜ドラマを中心に法律や金融を中心に扱う経済ドラマが盛り上がりを見せていた。池井戸潤の小説がドラマ化されたのも、その流れに乗ってのことだったが、難しいテーマを扱う重厚な作品だったため、当時は知る人ぞ知る作品という立ち位置だった。
この状況が大きく変わったのが、2013年にTBSの日曜劇場で放送された『半沢直樹』のメガヒットだ。バンカーの半沢直樹(堺雅人)が銀行内での熾烈な権力争いに巻き込まれて戦う様子を、チーフ演出の福澤克雄は、黒澤明の映画『用心棒』のような活劇を意識したと当時のインタビューで語っている。(※)
本作は大企業のエリート社員を悪代官、銀行員を侍、町工場で働く庶民を重税にあえぐ農民に見立てた“現代の時代劇”とでも言うような作品だった。会話の内容は、経済や法律の専門知識が飛び交う難解なものだったが、物語を大企業のエリートVS町工場で働く庶民、そして間に立つ銀行という三すくみの構図に落とし込んだ結果、物語は明確になり、大人向けの社会派ドラマだった池井戸潤作品は、大衆向け娯楽作品として生まれ変わったのだ。