『夏へのトンネル、さよならの出口』が描く恋愛のリアル eillの歌声がヒットの鍵に

『夏トン』eillの歌声がヒットの鍵に

eillだからこそできた「リアルな恋を歌う」こと

 劇場版アニメ『夏へのトンネル、さよならの出口』(以下、『夏トン』)が公開中。本作は、優しさと切なさに満ちたとある男女の夏を繊細な筆致で描いたラブストーリーで、幻想的な映像に新進気鋭のシンガーソングライター・eillの歌声が寄り添う。

 公開から数週間が経ってもなお、多くのファンの心を掴んで離さない本作だが、その理由の1つに「シビアな現実を精巧に描いたラブロマンス」だからという点が挙げられる。『君の名は。』のヒット以降「夏×男女×タイムスリップ」をテーマにした青春アニメ映画は数を増すばかりだが、『夏トン』は他作品とは一線を画す。その魅力づけに大きく影響しているのは、本編を彩るeillの楽曲の存在だ。

eill | フィナーレ。 (Official Music Video)

 夏をテーマにした青春アニメ映画といえば、明るくポップな作品のストーリーラインを基盤に、主題歌及び劇伴もキャッチーな音楽性を持つ楽曲を合わせるスタイルが主流となっている。

 しかし『夏トン』は従来の青春ものとテイストが異なり、恋愛要素はあれど、どちらかといえばシリアスな空気が漂う物語だ。主要キャラである塔野カオル(声・鈴鹿央士)と花城あんず(声・飯豊まりえ)は、それぞれの心に葛藤を抱えており、彼らにとって現実世界は居心地の良いものではない。自己実現や過去への後悔を晴らすために手を組む中で、2人は互いに惹かれあっていく。

夏へのトンネル、さよならの出口

 つまり、カオルとあんずにとっての「恋」は暗闇へ差し込むまばゆい光なのだ。ただ甘く楽しいだけの恋が全てではない。互いの存在によって、色褪せた世界がそっと色づくような、傷ついた過去への癒しを伴う恋もあっていい。そもそも「恋」とは何かを突き詰めて考えれば、冒頭でカオルが世界からシャットアウトするかのように耳を傾ける「片っぽ- Acoustic Version」のサビ、〈痛くて甘いのさ〉というフレーズが答えなのではないかと思わされる。

片っぽ – Acoustic Version

 eillが本作で、曲としての派手さや耳触りの良いキャッチーさだけではトレースすることのできない、リアルな恋の形を見事な表現力で音楽に落とし込んでいる点にも注目したい。eillの歌声には、恋の隙間に潜む仄暗さや痛みをそっと包み込むような、等身大の恋に寄り添う優しさがある。例えるならば、圧倒的なパワーで周囲を照らす太陽よりも深い夜闇の中で煌々と輝く月のようだ。

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