『鎌倉殿の13人』北条時政、“最後”のオンベレブンビンバ 二度と戻らない家族の時間

『鎌倉殿の13人』最後のオンベレブンビンバ

 『鎌倉殿の13人』(NHK総合)第37回「オンベレブンビンバ」。北条義時(小栗旬)は、政子(小池栄子)、大江広元(栗原英雄)らと新体制を始動させた。一方、りく(宮沢りえ)は時政(坂東彌十郎)が蚊帳の外に置かれたことに憤慨し、娘婿・平賀朝雅(山中崇)を担いで対抗することを画策する。

 第37回のタイトル「オンベレブンビンバ」は、かつて時政の孫である大姫(南沙良)が“元気になるおまじない”として唱え出した「オンタラクソワカ」を指していた。久方ぶりの北条家の団欒は和気あいあいとしていて、伊豆のいち豪族だった北条家がのどかな日常を過ごしていた頃が思い出される。団欒の中で唱えられた「オンベレブンビンバ」には、家族を何よりも大事に思う時政の覚悟と深い愛が感じられ、朗らかな場面なのだが切なくなった。

 第37回は愛息子・政範(中川翼)を失った深い悲しみがもとで、時政に進言し続けるりくと、りくを大切に思うがゆえ、ある覚悟を決めた時政が印象的だった。

 りくの野心は、北条家が2つに割れるきっかけを生み出したといえる。政子が「もう父上を振り回すのはおやめなさい」と忠告したように、側から見れば、りくが時政を振り回す形になっている。けれど、りくの野心には彼女自身のプライドだけではなく、純粋に夫・時政を慕う気持ちも含まれているはずだ。

 時政を焚きつけるときのりくは、きっとした顔つきで時政を見据えるため、時政は往々にしてその力強さに圧倒される。しかし、りくが時政に寄り添うとき、時政への愛おしい感情が溢れ出るようにりくの表情は柔らかくなる。「もっとりくを喜ばせてくださいな」「りくは強欲にございます」と時政に囁く場面の声色や顔つきは妖艶にも感じられ、一般に悪女として知られるりくの姿を映し出したようにも見えたが、時政がりくに応え、りくを優しく抱きしめたとき、安心したように目を閉じたりくの表情は無垢そのものだ。時政に寄り添うりくの安らかな顔立ちを見ていると、りくが時政を大切にしていること、時政からの愛に幸せを感じていることがうかがえる。

 確かにりくは、夫・時政の地位を高めようと働きかける貪欲さを持ち合わせているし、自身に忠実に生きる人物ゆえ、野心家や悪女といった印象も受ける。だが、時政への愛情を感じさせるりくの表情や佇まいを見ていると、自身を溺愛する夫と子供たちに愛を捧げるその純粋さが、北条家の運命を思わぬ方向へと進めてしまっただけなのだと感じる。

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