錦鯉が教えてくれた“ライフ・イズ・ビューティフル!” 愛に満ちた『泳げ!ニシキゴイ』

 2021年、M-1グランプリ最終決戦での錦鯉のネタ。「街中に逃げた猿を捕まえたい」と言い出し暴走する長谷川雅紀を渡辺隆が取り押さえ、「おじいちゃんを寝かしつける手つき」で横たわらせると、雅紀が客席に向かって「ライフ・イズ・ビューティフル!」と叫ぶオチに大爆笑しながら、なぜか少し泣きそうになった。そして見事優勝を決めた雅紀と隆の男泣きを見て、泣いた。審査員のナイツ・塙もサンドウィッチマン・富澤も、ライバルである他の決勝進出芸人たちも泣いていた。

 この、全国を泣き笑いさせた50歳と43歳の「シンデレラおじさん」の半生をドラマ化した『泳げ!ニシキゴイ』(日本テレビ系)が9月16日に最終回を迎えた。『ZIP!』(日本テレビ系)の番組内、5分少々のショートドラマなれど、そのハイレベルな仕上がりに驚く。毎話5分間の物語の豊かさ、ふくよかさ。ポップなコメディと分厚い人情劇が陰陽太極図のように入り組んだ作劇。しかし、「これみよがし」な嫌らしさは一切なく、粋な「笑わせ」と「泣かせ」のバランスが貫かれている。

 まさに、モデルである錦鯉の「老若男女に愛される」芸風をそのまま作劇に落とし込んだようなドラマだ。どんな属性の人も楽しめる“ユニバーサル・ドラマ”と言っても過言ではない。この作品は、ドラマの新たな地平を拓いたかもしれない。なぜこんなドラマが出来上がったのか。それはやはり、「愛」というひと言に尽きるのではないか。

 長谷川雅紀と渡辺隆という人物の魅力をとことん取材して掘り下げ、どうしたらそれが視聴者に伝わるかということを考え抜いたスタッフの愛。雅紀と隆の「お笑い」への愛。互いの、相方に対する愛。彼らを見守る家族や、芸人仲間の愛。多方向の「愛」が詰まったドラマだった。全話を通じて、「奇をてらわず、本質的なことを真面目に描けば、おのずと普遍につながる」という真理を見せてもらった気がする。なんてったって、大真面目に「バカ」という本質を追求して日本一の漫才師になった錦鯉のドラマなのだから。 

 毎話5分という尺が「動画世代」と呼ばれる若年層の視聴スタイルにフィットしつつ、物語の「重織」を味わいたい「ドラマ好き」の大人をも満足させた。2人の子ども時代から五十路・四十路のおじさんに成長するまでずっとブレない人物造形が、「この子はたしかに将来ああやって“熟成”されていくだろうな」と納得のいくもので、安心して物語に身を委ねることができる。森本慎太郎と渡辺大知の、「体当たり」どころか魂ごとぶつかって雅紀と隆になりきり、役を「生きた」演技が胸を打った。

 印象的なアイテムやエピソードを繰り返し登場させる手法も効いていた。雅紀は、月、納豆おにぎり、ジャージなど。隆は、泳がない鯉のぼり、理屈っぽいのにどこか抜けてる性格、「勘違いも思い込めば現実になる」という気づき。この「反復」「連続」の効果により、2人とも幼少期・思春期・成人後を通じてちゃんと「同じ人物」に見えるのだ。

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