『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』が獲得した新たな物語 血飛沫もドラゴンも封じた緊張感

 オットーが信頼を寄せる謎の人物“白蛆”(ミサリアだろうか?)の間者によって、レイニラの密事はヴィセーリスとアリセントの知れるところとなる。アリセントはレイニラを呼び出すと、昨夜の行為について問い詰め、「純血を疑われる行為をするなんて愚か」「諸侯との縁談を組むのにどれほど苦労したか」と糾弾する。レイニラは事実と異なる発言をするが、取り繕うような節もあえて嘘をつく素振りも見受けられず、まるで昨晩の記憶をすり替えているようにも見えるのが興味深い(そもそも昨夜の出来事はデイモンの誘惑ではなく、レイニラの主体的な意思によるものなのだろうか?)。ミリー・オールコックは回を重ねる毎に輝きを増し、ここでは演技的な巧みさも感じさせてその才能を証明している。

 一方、ヴィセーリスの怒りを買ったデイモンはしたたかに痛めつけられ、ついに秘められた心の内を吐露する。「レイニラを妻にくれたらドラゴンの一族の栄光を2人で取り戻す」。『ゲーム・オブ・スローンズ』終盤でも言及されたように、ターガリエン家は近親婚の伝統を持ち、騎竜者の純血を守ってきた。しかし、そうとはわかっていても娘の父親であるヴィセーリスがこれを許すはずもなく(彼は第2話でもサバンナ・ステイン演じる12歳のレーナ・ヴェラリオンとの結婚を断っている)、デイモンは再び王都から放逐されることとなる。仄暗い情念と屈折を見せるマット・スミスが素晴らしい。

 レイニラは自身の欲望よりも王位継承者としての義務が優ると王に諭され、オットーの罷免を条件についにレーナー・ヴェラリオン(テオ・ネイト)との結婚を承諾する。そんな彼女のもとに特別に煎じられたというお茶が運ばれてくる。学匠曰く「飲めば望まぬ結果を避けられます」というそれが彼女の身体に与える効果は言うまでもないだろう。主体的に生きる自由と引き換えに玉座を手に入れるかのように見えるレイニラだが、私たちは彼女の末裔であるデナーリスが“車輪”の前に敗れることを知っている。身体の自由を奪われた女たちの姿は私たちの生きる世界と地続きとなり、『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』はこの第4話で新たな物語を獲得するのである。

■配信情報
『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』
U-NEXTにて配信中
出演:パディ・コンシダイン、マット・スミス、オリヴィア・クック、エマ・ダーシー、スティーヴ・トゥーサント、イヴ・ベスト、ファビアン・フランケル、ソノヤ・ミズノ、リス・エヴァンス、ミリー・オールコック、ベサニー・アントニア、フィービー・キャンベル、エミリー・キャリー、ハリー・コレット、ライアン・コア、トム・グリン=カーニー、ジェファーソン・ホール、デヴィッド・ホロヴィッチ、ウィル・ジョンソン、ジョン・マクミラン、グレアム・マクタヴィッシュ、ユアン・ミッチェル、テオ・ネイト、マシュー・ニーダム、ビル・パターソン、フィア・サバン、ギャビン・スポークス、サバンナ・ステイン
日本語吹替版キャスト:早見沙織(レイニラ・ターガリエン役)、津田健次郎(デイモン・ターガリエン役)、堀内賢雄(ヴィセーリス・ターガリエン役)、大塚芳忠(オットー・ハイタワー役)、坂本真綾(アリセント・ハイタワー役)、大塚明夫(コアリーズ・ヴェラリオン役)、田中敦子(レイニス・ヴェラリオン役)、諏訪部順一(クリストン・コール役)
共同企画・製作総指揮:ジョージ・R・R・マーティン
共同企画・共同ショーランナー・製作総指揮・脚本:ライアン・コンダル
共同ショーランナー・製作総指揮・監督:ミゲル・サポチニク
製作総指揮・脚本:サラ・ヘス
製作総指揮:ジョスリン・ディアス、ヴィンス・ジェラルディス、ロン・シュミット
監督:クレア・キルナー、ジータ・V・パテル
監督・共同製作総指揮:グレッグ・ヤイタネス
原作:ジョージ・R・R・マーティン『炎と血』
原題:House of the Dragon
翻訳:川又勝利、佐々井朝衣
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公式サイト:https://www.video.unext.jp/title_k/house_of_the_dragon

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