『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』が獲得した新たな物語 血飛沫もドラゴンも封じた緊張感

※本稿には『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』第4話のネタバレを含みます。

 『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』はこれまでの3エピソードに合戦シーンやドラゴン、権謀術数といった『ゲーム・オブ・スローンズ』ならではの要素を凝縮してきたが、この第4話でいよいよ新機軸を見せている。今回、初登板となるクレア・キルナー監督はミザンスが美しく、宮廷や城下は今までと全く同じロケーションながら初めて見るような新鮮さで、的確な配置が人物の心情と力関係を浮き彫りにしている。キルナーは第9話も手掛けており、これは『ゲーム・オブ・スローンズ』のセオリー通りなら最もショッキングな出来事が起こるシーズン最重要回になるだろう。血飛沫もドラゴンも封じ、第4話を最も緊張感のあるエピソードへと仕上げた彼女の手腕に期待が高まる。『ゲーム・オブ・スローンズ』はシリーズ後半からミゲル・サポチニクやマット・シャックマンら演出家の才能を発掘してきたが、彼女もこの系譜に続きそうだ。

 王位継承者であるレイニラ(ミリー・オールコック)の婿取りが進み、王土の各地から候補者たちが集まってくる。レイニラの年齢に不釣り合いな子供から老人まで揃ったそれは、各自の利権に根ざした政略的なものに過ぎない。そこへ踏み石諸島を平定したデイモン・ターガリエン(マット・スミス)が帰還する。死線をくぐり抜けた彼にはかつてのような虚栄心がなく、勝利を王に捧げるとヴィセーリス(パディ・コンシダイン)とデイモンはようやく和解に至った。その様子を見守るレイニラの胸元には第1話で叔父デイモンから贈られたペンダントが輝く。ヴァリリア語で互いの胸の内を明かすレイニラとデイモンの間には親密な空気が漂い、お忍びで夜の城下町に繰り出す姿は危うい。道端で「小僧」と言われたレイニラは笑みを浮かべると、猥雑なキングズ・ランディングの夜に身を任せ、低俗な風刺劇に憤り、万引きをし、そしてデイモンに手を引かれるまま娼館の奥へと足を踏み入れていく。

 キルナー監督による城下町の闇夜はレイニラの心の奥底にある欲望を引き出す淫靡さを持ち、『ゲーム・オブ・スローンズ』で一種の呼び物(見世物)として機能し、常に批判の的となってきたヌードやセックスシーンにストーリー上の重要な意味を持たせることに成功している。ここでもミザンスが美しく、欲望を喚起されたレイニラがデイモンを求める一方、反発するようにデイモンが身を引くさまや、抑えきれないレイニラがクリストン・コール(ファビアン・フランケル)を戯れるように誘う場面はまるで官能的なダンスのようだ(ラミン・ジャヴァディもこれまでにないコラボレートを聞かせている)。

 このエピソードではレイニラとアリセント(エミリー・キャリー)が徹底して対比される。権力者の妻になるべく、父オットー・ハイタワー(リス・エヴァンス)から洗脳にも近い教育を施されてきたアリセントは、ヴィセーリス王との結婚後、世継ぎを産むという“義務”に徹してきた。レイニラが娼館での夜に自身を解放する一方、アリセントは夜更けに王の寝室に呼び出されると意思とは関係なく性行為を強要される。これが夜ごと行われてきたことは想像に難くなく、王妃という地位を得ながら彼女は意思と身体の自由を奪われているのだ。

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